糸での引上げとリポレーザーの合わせ技

 
 エックストーシスとリポレーザーの合わせ技の解りやすい例を紹介します。

 糸入れる前です、法令線から口横、あごにかけて、ドレープ状に下がってきています。


 まずは糸のデザインです。エックストーシスで耳横で交差させて(縦糸)頭側へも引きます。頭側の糸のデザインは写真に写っていません。アプトスを2本加えて(横糸)さらに補強します。


施術直後です。


 半年ほどしたところ。初期の引き上がりは一カ月くらいである程度戻りますが、顎ライン(フェイスライン)の引き上がり効果は保たれています。しかし、口横から顎下にかけてがどうしてもお肉の重みが残ります。


 それで、リポレーザーで口横と顎下を内側からあぶって、引き締めてやります。下は施術範囲のデザイン。


4か月後です。ある程度すっきりしましたが、まだ口横が残っています。


さらに小範囲を2回目のリポレーザー。下は範囲です。


 2回目リポレーザーから2カ月後。かなりすっきりしてきました。お友達にもはっきりと「若返ったね」とか「小顔になった。」と言われるそうです。


補足です。

1 「リポレーザーと糸を一度にやりたい」という方がときどきいらっしゃいますが、別々に分けた方がいいです。なぜかというと、リポレーザーの施術は、術直後けっこう腫れるので(麻酔薬の注射量が多いため)、糸での引上げに対抗する重みになってしまい、戻りやすいからです。

2 順番としては、糸→リポレーザーがいいです。なぜかというと、リポレーザーというのは脂肪を焼くわけですが、たるんで下がっている脂肪というのは、本来は上の方にあったものなので、出来れば残して、元々あった位置に戻してやりたいからです(糸での引き上げというのは、皮を引っ張るのではなく、深いところの脂肪の上方への整復です)。糸でどうしても引き上がらない残った部分を、焼いて取る、という順番のほうが、ふっくら感も保てて自然な感じに仕上がります。

3 既に何回も記していることですが、直後の腫れの程度は、リポレーザーのほうが糸より強いです。「リポレーザーの方が糸より腫れが少ない・ダウンタイムが少ない」と考えて、まずはリポレーザーを、と希望される方が多いのですが、逆ですので御注意下さい。

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 これは、小杉小二郎画伯の「花と果物」という油絵で、最近開業した知人にお祝いとして送ったものです。差し上げたものではあるのですが、私自身、この絵の雰囲気がとても気に入ったので、撮影した画像を、診察室でのカウンセリングの際に使うパソコンの背景に設定してみました。
 
 医者になってから、皮膚科へ、そして美容へと、ある意味楽なほうへ、自分自身苦しくない方へと、流れてきてしまった私ですが、私なりに医者として、生活のすべてをなげうって病気を治すことに専念した一時期がありました。その頃いっしょに働いた、戦友のような知人です。

 もう最後に会ってから何年も経ちます。 私は美容に転身して、知人もまた違う道へと進みました。いつか年をとってお会いして、思い出話をすることはあっても、互いの人生が交わることはもう無いのでしょう。
 
年をとると、思い出だけが増えていきます。絵を通して、昔の若かった頃の自分や知人に思いを馳せるのですが、いずれはそれも薄らいで、ただ絵だけが残るのでしょう。  

 それが人生というものなのだろうし、色々なものを過去へと置いたままにしてきた罪深さのような感覚(注:患者に対してや自分が行ってきた医療行為についてじゃないですよ、勿論。私生活上ないがしろにしてしまった関係者に対する後ろめたさのことです)は、消えることは無いのでしょうが、それでもまた、夜が明ければ新しい朝が訪れます。

  私にとって美容での開業は、隠遁生活を始めるようなものでした。この白いクリニックは私にとっての小さな修道院で、朝起きて、ここで仕事をすること、そのものが、私にとっての「祈り」です。 静かで決まった生活の繰り返しは、私の心をゆっくりと癒してくれました。
 
 それ以上の何も望まず、たぶん私は、ここでの毎日の生活という、祈りをこれからも、ささげ続けることでしょう。    

 すべての人たちの心に平安が訪れますように。Merry Christmas.  
(2012年12月21日記)
 

PRP療法の漫画描いてみました


PRP療法の漫画描いてみました。





どうかな?・・スタッフには「解りやすい」と受けたんですが(^^;。
 血小板が、なぜ小じわを減らして張りを持たせるかというと、血小板から放出されるPDGFなどの各種成長因子の働きによります。皮膚には、繊維芽細胞という、コラーゲンを作ってくれる職人さんのような細胞がいるのですが、PDGF等は、この細胞を刺激・活性化します。いったんPDGFで活性化された繊維芽細胞は、その後数ヶ月コラーゲンの産生を続けます(autocrine機構といって、自分自身で成長因子を出すことにより、活性化が維持される)。

 ヒアルロン酸、あるいはコラーゲンの注射と血小板(PRP療法)との違いは、

1) ヒアルロン酸やコラーゲン注射は、打った直後に打った部位だけが膨らみとなることによって、しわを消す。

 分子量が大きいので、周辺に拡散しにくいです。ですから、打つ人(術者)の技量に大きく左右されるし、細かい小じわには、向きません。法令線など、大きめのしわのボリュームを出すのに用います。血小板から放出される成長因子は、分子量が小さいので、注射部位から同心円状に広く拡散します。

2) ヒアルロン酸やコラーゲンは、注射直後がボリュームのピークで、その後半年から一年で吸収分解されますが、PRP療法によって、自己繊維芽細胞が作り出すコラーゲンは、まったくの自己組織なので、持ちが長い(数年と考えられている)。

 ただし、結果が出るまでには、1~2ヶ月かかります。「繊維芽三郎」おじさんが、せっせとコラーゲンを紡ぐのですが、毎日毎日の仕事は少しづつで、製品がたまるまでに時間がかかるということです。

 さて、私は、以前、保険診療の世界にいたころは、一時期アトピー性皮膚炎の診療に没頭していました。アトピー性皮膚炎では、炎症が退いたあと、首などに小じわが残ることがあります。昔の知人の先生から「アトピーはかなり良くなったのだが、首の小じわを気にしている人がいる。先生の美容皮膚科のノウハウでなんとかならないか?」と、紹介を受けました。

PRP施術前

2カ月後

改善がみられました。拡大すると、

以前紹介した、うちのスタッフの「首の鳥肌状の皮膚」(→こちら)と比べてみます。

 加齢のほうは、皮膚付属器(汗線や毛嚢など)を残して(だからブツブツに見える)、その間の真皮が萎縮していますが、アトピーの首の場合は、皮溝と皮丘との差が増強されることによって小じわが目立っている感じです。

 アトピー性皮膚炎の治療には、副腎皮質ステロイドの外用剤を用いることが多いのですが、この薬剤には、真皮の繊維芽細胞を抑制して、真皮を委縮させる作用があります(アトピー性皮膚炎自体では、真皮の委縮は起こらない)。アトピー性皮膚炎が良くなれば、ステロイドも減量・中止するのですが、ステロイド外用が長期にわたると、そのあとの回復過程で、繊維芽細胞のコラーゲン産生が追いつかない、あるいは、分布にばらつきが生じるのだと考えられます。
 PRPの作用により、全体的に均質にコラーゲンの産生が促されたことによって、両者とも改善しています。

 PRPというのはなかなかユニークな施術で、学問的にも興味深いです。いろいろ病気の治療にも使えそうですね。
(2012年10月24日記)

CO2レーザーにおける炭化層の役割



先回(→こちら)の続きです。

先回「桐の箪笥は火事になって焦げても中の着物は燃えない」ことを例にあげて、CO2レーザーで炭化層が生じると、そこから先の組織を熱損傷から守る働きがあるだろう、といったことを記しました。

桐の箪笥の例えだけでは、納得いかない方もいるかもしれないので、もう少し科学的に推論してみます。

まず「炭化」とは何か。

有機物の温度を上昇させると、蛋白質の凝固・変性から始まって、化学的な変化が起こります。

窒素・硫黄・酸素などが、炭素原子と離れて、小さな分子となります。これらは気体(ガス)です。残った炭素の塊が「炭化」です。
炭化と燃焼は異なります。燃焼は、空気中の酸素分子と反応して、熱や光の強いエネルギーを放出するものですが、炭化とは、有機物から、窒素・硫黄・酸素原子を含む小分子が、離れていってしまう過程を言います。

炭焼き釜で、木を蒸し焼きにして炭を作る過程を思い浮かべて下さい。有機物(木)は、直接、炭にしようとしても出来ません。いったん強いエネルギーを外部から加えてやる必要があります(炭焼き釜に火をくべる)。それによって、木から炭素以外の元素が分子間結合が切れて離れてガス状になって出て行きます。後には炭が残ります。

CO2レーザーで、組織を蒸散させるときに、炭化層が出来ますが、この部でも同じことが起きています。組織がいったんエネルギーを吸収して、そのあと、そこから窒素・硫黄・酸素などを含んだ小分子が気体(ガス)状になって、外部に放出されます。レーザーのエネルギーは、このときに、これら小分子の運動エネルギー(熱)として放出されます。

ですから、炭化層が生じているということは、そこよりも深部の組織を、熱変性から守っていると言えます。

これでも納得いかないという方のために、数式による解説を試みます。先回の続き、CO2レーザーとエルビウムヤグレーザーの比較の話です。
エルビウムはCO2よりも「水への吸収が10倍」すなわち「吸光係数が10倍」のようです。

吸光係数というのは、

ランベルト・ベールの法則


におけるαのことで、つまり、吸光係数が10倍だと、同じ量の光エネルギーが組織に吸収されるまでに光が進む距離は10分の1になる、ということです。指数関数的に減衰していく、ということですね。

どんなイメージなのか、エクセルでグラフを作ってみました。

横軸xが距離、縦軸yが光エネルギーで、青線は赤線に比べて吸光係数が10倍とした場合の、減衰曲線です。なるほど、これだと、CO2レーザーはエルビウムに比べて、エネルギーの減衰が悪く、どんどん深くまで達して、熱損傷起こしてしまいそうですね。

そんなことはない、なぜかというとCO2レーザーでは、水以外の組織すなわち有機物に、光エネルギーが吸収されているからです(だから炭化が起きる)。

蒸散というのは、組織中の液体(水)あるいは固体(有機物)に強いエネルギーを与えて気化させ、このときの体積の急膨張によって、組織を爆発的に粉々にしてしまうメカニズムであるわけですが、エルビウムは、水への吸光係数が高く(水選択性が高い)、CO2は水への吸光係数が小さいです。しかし、CO2は水以外の有機物にも吸収されて、水蒸気以外のガスをも放出して爆発します。

エルビウムは水蒸気爆発、CO2は水蒸気に加えて有機物が混ざった化学工場爆発、と例えるといいかもです。

CO2の水以外の有機物への吸光エネルギーを考慮すると、上のグラフがどうなるか?考えてみました。

仮に、CO2レーザーの水以外の有機物への吸光係数、というか、ランベルト・ベールの式のαに当たる数値を、エルビウムの水の吸光係数の10倍とします。
皮膚の70%くらいが水分であるとすると、減衰曲線は、y=0.7exp(-0.1x)+0.3exp(-10x)となります。すなわち下図です。

ここから、xが小さい=非常に浅い部分においては、エルビウムのほうがCO2よりも減衰が小さいことがわかります。

さて、深い部分を見ると、CO2レーザーは減衰が悪く、熱損傷が大きいようにみえます。しかし、ここで登場するのが「炭化層」というバリアです。

炭化層は、当然、水分は0%です。ということは、ここでは水に関する減衰曲線は遮断されますから、y=exp(-10x)の急激な減衰曲線となります。

仮に深さ1のところで、炭化層が出来たとすると、下図のようになります。

炭化層を抜けたあとは、そのときの値を初値(y1)として、y=y1*{0.7exp(-0.1x)+0.3exp(-10x)}で減衰が始まる理屈ですが、y1は非常に小さいはずです。炭化層における減衰が急峻だからです。
エルビウムでは炭化層ができませんから、熱損傷はそのままです。

ですから、
炭化層ができるメカニズムによって、CO2レーザーは深部熱損傷から強く守られている
と言えます。

これは、CO2レーザーを使っていての実感とも合います。

CO2レーザーのテクニックは、いくつかありますが、基本は「フォーカス」と「デフォーカス」です。フォーカスは、焦点に合わせて小さなスポットに大きなエネルギーを加えるやりかたで、デフォーカスは、わざと焦点から遠ざけて、あぶるように軽く、より広範囲に焼く感じです。デフォーカスのほうが、炭化層は多くなりますが、熱損傷は少ない印象です。単に、デフォーカスにすると、エネルギー密度が小さくなるためと考えていましたが、炭化層を多く作るモードのために、水分を介した熱損傷が小さい、ためなのかもしれません。

※上記モデルにおいて、実際には、y=0.7exp(-x)+0.3exp(-10x)の、0.7と0.3すなわち皮膚の含水率は、CO2レーザーの照射によって変化するはずです。水の気化のほうが、組織の蒸散よりも早いからです。水の気化に伴い、0.7のほうの係数は小さくなり、0.3のほうの係数が上昇し、急峻な低下を示すexp(-10x)の寄与のほうが大きくなります。水が気化したあとの組織は、炭化していなくても、深部の熱損傷を防ぐバリアとなるということです。
時系列でいうと、水分の気化→組織の蒸散→炭化層の蒸散の順で、One shotのうちに、これが浅いところから深いまで繰り返されて掘り進んでいく、というイメージです。炭化層はOne shotの最後だけに出来るのではなく、掘り進む過程で常に形成されていて、最後に辺縁部のものが残されます。
しかし、この時系列による係数の変化まで考慮した数式は、私の手に余るし、この問題を考えるにあたって、そこまでの厳密性は必要ないでしょう。

以上が私の考えですが、果たしてどこまで当たっているのか、はたまた、どこかで間違いあるいは詰めの甘さがあるのか、それはわかりません。所詮、一開業医だし(^^;。
もしどなたか、気が付いたことありましたら、FAX052-264-0213までご指摘ください。よろしくですm(_ _)m。

なお、今回の記事というか、発想は、千歳台きたのクリニックの院長先生のブログ「皮膚の歳時記」(→こちら)中の記事を読んだことがきっかけになっています。
北野先生は、高野豆腐にエルビウムとCO2レーザーとを当てて、エルビウムでは炭化層が出来ないが、CO2では炭化層が出来ることを確認して、「炭化層のできるCO2よりも、水への吸光係数の高いエルビウムのほうが、熱損傷が少ない」と、考えておられますが、私は上記のような理由で、そ炭化層が出来るから熱損傷が大きいとは言えないのではないか?と考えた次第です。

まあ、しかし、現実問題として、CO2でもエルビウムでも、結局は術者次第でしょう(^^)。CO2は術者の腕にかなり左右されます。エルビウムは、初心者でも、炭化層が出来ない分、下床の確認がしやすいというメリットはあります。
汗管腫をCO2レーザーで焼くときは、小さく深いところの炭化層を上手に拭き取れるような極細の綿棒をこしらえておけばいいだけの話です。局所麻酔打つ前に、ピオクタニンでしっかり汗管腫の位置をマーキングしておく必要があります。この作業をあらかじめ丁寧にやっておかないと、局麻で膨らんだあと、汗管腫がどこにあったのか判らなくなって、あせることになるし、取り残しの原因にもなります。

私は、今のところ、北野先生の見解とは違う結論に達していますが、「皮膚の歳時記」の記事は興味深く、また面白かった。とことん自分で考えて、実験もしてみるという姿勢にとても好感を持ちました。

追記)
水とハイドロキシアパタイトとの、エルビウムとCO2の吸光係数の載っているグラフ見つけました。

上で、「CO2レーザーの水以外の有機物への吸光係数はエルビウムヤグレーザーの水への吸光係数の10倍」と仮定しましたが、CO2レーザーのハイドロキシアパタイトへの吸光係数はエルビウムヤグレーザーの水への吸光係数の数倍はありそうです。ですから、上記仮定は的外れではないと思います。
また、このグラフを見ると、ハイドロキシアパタイトに対するCO2の吸光係数は、エルビウムの100倍以上です。ハイドロキシアパタイトを「水以外の有機物」に置き換えても、似た数字になるでしょう。
「エルビウムはCO2に比べて水の吸光係数が10倍だから熱損傷起こしにくい」とう仮説が成り立つなら、「CO2はエルビウムに比べてハイドロキシアパタイト(≒水以外の有機物)の吸光係数が100倍なので、もっと熱損傷起こしにくい」という仮説も成り立ちます。
そしてこの二つは矛盾します。ということは、この仮説はおかしい、間違っているということです。
純粋に論理学の問題ととらえるなら、「エルビウムはCO2に比べて生体を構成する全ての物質に対して吸光係数が大きい」なら、「エルビウムはCO2よりも熱損傷起こしにくい」と言えます。しかし、実際にはそうじゃないってことです。

※この記事には続きがあります→こちら
(2012年10月13日記)

CO2レーザーとエルビウムヤグレーザー


そういえば、昔、レーザーリサーフェシングが盛んだった頃に、この2機種を比較した論文が多く出ていたけど、どうだったのかな?と思いついて、検索してみました。

Pubmedですぐにいくつかヒットしたので、Pay per viewで一論文$30くらいでダウンロードします。今は図書館に行かなくても、お金さえ払えば、いくらでも医学論文が読めます。本当に便利です。

私は、医学論文を読むのが好きです。診療の合間は、たいていPubmedで、思いついたkey wordで検索して、興味のある論文見つけてはダウンロードして読んでいます。ここ数年は、毎月ダウンロード代10万円くらい遣ってます。まあ、他にお金かかる趣味ないから(^^;。

それでこういうデータ見つけました(表をクリックすると拡大します)。
(Comparison of carbon dioxide laser, erbium:YAG laser, dermabrasion, and dermatome: a study of thermal damage, wound contraction, and wound healing in a live pig model: implications for skin resurfacing. J Am Acad Dermatol. 2000 Jan;42(1 Pt 1):92-105.)

これ見ると、CO2レーザー1pass(1回照射)は、だいたいエルビウムレーザー5回に相当します(角層からの深さがそれぞれ70μmと80μmでほぼ同じになる)。それぞれに対応する、術後2日における真皮のダメージの深さは、120~150と180。あれっ?エルビウムの方がダメージ深じゃん。

もっとも、エルビウムを10pass行った場合と、CO2を3pass行った場合とを比べると、前者は深さ170で真皮ダメージ240、後者は深さ85~100で真皮ダメージ200~300で、CO2のほうが、ダメージ深いです。しかし、CO2とエルビウム、熱損傷はほぼ同じのようですね。

デルマトーム(大きなメスのような刃物)で削った場合には、角層からの深さ150に対して真皮ダメージ140だから、やはりメカニカルな操作は、レーザーよりも真皮ダメージ少ないです。

もしも、レーザーによる熱変性を問題視するなら、メカニカルアブレージョンでほくろ取ればいいんですよね。エルビウムは、炭化させないから、真皮からの出血も止まらないし、デルマトームやトレパンのような刃物で機械的に取るのと変わりません。

ガラス細工に使うルーターという道具があるんですが、これを使ってメカニカルアブレーションして取ることも出来ます。

実際、昔、わたし、国立病院勤務医の頃、これでほくろ取ってました。医療用のアブレージョン器具があったんですが、細かい仕事がやりにくい。それで東急ハンズで、これ買ってきて、滅菌して用いてました。麻酔無くても、さほど痛みを感じず、小さなほくろなら取れてしまいます。病院がCO2レーザーを買ってくれない貧乏勤務医としては重宝しました。

熱変性を重視して、CO2レーザーよりもエルビウムヤグレーザーの方が良いと主張する医師がいますが、なぜメカニカルアブレージョンに辿り着かないのか不思議です。

もう一つ、私の懐疑は、「CO2レーザーは炭化層が出来る=熱変性が大きい」というセオリーです。本当か?

高周波で皮膚焼くとき、周辺への熱変性は広いけど、炭化層作ってないでしょう?だから、炭化があるから組織ダメージが強いとは言えないと考えます。

桐の木は燃えるが桐タンスは燃えない」というサイトご覧ください(→こちら)。
一部引用します。

なぜ「桐箪笥は火に強い、燃えない」といわれるのでしょうか?
1つには、キリ材の細胞組織は他の樹種と大きく違って柔組織が多い。
また乾燥による収縮・変形が小さいために、燃焼によって割れや隙間ができない。
2つには、表面が燃えて炭化層ができること、これが高性能の断熱材とし働き、熱を内部に伝えにくくする。
この2つの理由によって、火災でタンスの中まで燃え尽きるには時間がかかると推測することができます。
小さいキリ箱を燃やす実験では箱の中の温度が100℃になるまでには8分ほどかかります。ですから、早く消火を行えばタンスの中の着物は被害をうけないといえるかもしれません。

(火事で焼けた桐たんす。中は焼けていません。)

ですから、私は、CO2レーザーで表面に薄い炭化層が出来ると、
1) 止血効果がある

ことに加えて、
2) 断熱効果がある

という、二つのメリットがあると思います。

独創性すなわちオリジナリティーというのは、要するに、自分の頭で考えるかどうか?ということだと思います。

オリジナリティーの強い先生、自分でデータを取ったり文献を調べたりして考えるタイプの先生(お医者さん)は好きです。たとえ自分と意見が違っていても尊敬します。できれば、議論して、いっしょに真実を突き止めたくなります。

私が軽蔑するのは、自分自身にオリジナリティーが無くて、そのくせ、「〇△先生がこう言っている」と、やたら他人の権威を振りかざす、「虎の威を借りるキツネ」的な医者です。そういう医者がネットで「虎の威を借りるキツネ」的な情報発信しているのに接すると、吐き気がします。 (→こちらに続く)
(2012年10月11日記)

Qスイッチルビーレーザーの致命的な欠点


先回(→こちら)の続きみたいな記事です。

以前から私は、「普通のしみを取る分には、Qスイッチ機構が付いていれば、ルビー・アレキサンドライト・YAGのどのレーザーでも結果に変わりはありません」と繰り返し記してきました。

機械というのは適材適所、というか、術者の使いようによります。機械に罪はありません、というか、より良いレーザー機器の開発に携わっている技術者の方には常日頃、本当に敬意を抱いております。開発技術者の方々のおかげで、こうしてクリニックでしみ取りが出来ているわけですから。

しかし、「しみ取りにはQスイッチルビーレーザーが最高!」みたいな、おかしな誤った情報を根拠もなくネットで垂れ流す医師が現れました。あまりに目に余るので、少し釘をさしておかねば、と考えて、以下の記事を書きました。本邦でQスイッチルビーレーザーを現在の形まで改良を重ねてきた、旧ニーク現エムエムアンドニークまたは渋谷工業技術者の方々、ご容赦ください。

Qスイッチルビーレーザーの致命的な欠点とは、このレーザーが3準位レーザーである、ということです。
・・・なんだか、レーザーの話としてはあまりに初歩的すぎて、書いていて赤面の至りですが。
左が3準位レーザーで右が4準位レーザー(QスイッチYAGレーザーは4準位レーザー)です。一番下のラインが原子の基底状態で、ここに外部から光エネルギーを供給することで(pump)、原子は励起し、これが復するとき(実線の↓)に、レーザー光が出ます。ルビーレーザーでは、励起状態は二つありますが、この低い方のレベルから基底状態に戻るときのレーザー光を用い、YAGレーザーでは、3つある励起状態の下2つを移行するときのレーザー光を用います。

基底状態と励起状態とでは、原子は、基底状態のほうが安定しています。ですから、励起状態⇒基底状態でレーザー光を出すルビーレーザーでは、励起状態⇒励起状態でレーザー光を出すYAGレーザーに比べて、はるかに強いエネルギーを外部から供給してやらなければ、レーザー光が出ません
いったん基底に戻った原子を再び励起させるには強い力が必要ですが、励起した同士を移行させるだけなら、弱い力で済むということです。
なおかつ、レーザー光を放出したあと基底状態に戻ってしまうルビーレーザーでは、次のレーザー光を照射するのにも、大きなエネルギーすなわち長い時間を要します。

ですから、QスイッチルビーレーザーのSPECを見ると、パルス幅は20nsecと長いし、照射間隔は最短でも0.8秒に1回とゆっくりです。QスイッチYAGレーザーだと、パルス幅は6nsecで、照射間隔は毎秒10回が可能です。

外部からの光エネルギー供給(pump)には、フラッシュランプを用いますが、Qルビーでは、これを強力なものにしなければならず、機械は大型化し、コストもかかりました。

昔のQスイッチルビーレーザーが3千万円以上したのは、この光供給部分が高額だったからです。高価な宝石のルビーが使われていたために高額だったのではありません。工業用のルビーというのは、kgあたり1~2万円くらいです(kg当たりですよ、レーザーの発振原として使う量ならせいぜい数百円でしょう)。

ちなみに、YAGとは、ガーネットのことです。美容で使う場合には、「ガーネットレーザー」と言ったほうが、響きはいいかもしれません。もっともこれも工業用ですから、価格は安いです。

話を元に戻して、近年、たぶん、この外部からの光供給部分が、小型・低価格になったので、Qスイッチルビーレーザーの価格がQスイッチYAGレーザー並みに下がってきました。機械の故障頻度も少なくなったようです。
高エネルギーシステムというのは、当然故障も多くなります。昔のQルビーの機械は結露したり故障が多く大変でした。しかし、低価格で故障が少なくなったとはいっても、パルス幅や照射間隔は変わっていません。3準位レーザーの宿命です。

光供給システムのサイズやコストには限界があります。照射間隔を短くしようとすれば、一回の光供給を少なくせざるを得ず、すると、発振時のレーザーのピーク値は低くなりますから、十分な出力のレーザー光を出すには、パルス幅を長く取るしかありません。パルス幅が長くなれば、熱緩和時間(thermal relaxation time)の理論から考えて、当然、細胞内のマイクロレベルの熱ダメージは増えます。すると、炎症後の色素沈着は濃くなります。「20nsecならば、メラニン顆粒の熱緩和時間よりは短い」というのは詭弁に過ぎません。だいたいこういう生体の数値というのは、正規分布するからです。同じエネルギーを与えるなら、20nsecよりも6nsecの照射時間のほうが、細胞のダメージは少なくなるのは当然です()。
照射サイクルが0.8秒で1回が限界となると、1回のスポット径をなるべく大きくして対応せざるをなくなります。パチン・・・パチン・・・と、大きめのスポットでしみを焼いていくってことです。細かいそばかす状のものなど、大小混在したものは取りにくい。それで謳い文句は「大きめの斑状のしみはルビーレーザーで取りましょう!」になる。大きめの斑状のしみがYAGレーザーで取れないのではなく、小さな数多いしみを取るのにルビーレーザーは向かないのです。

「しみ取りにはルビーレーザーが最高!」みたいな、誤った情報発信をしている医師は、ルビーレーザーを、ルビーの赤い色から連想したのでしょう、車のフェラーリに例えています。苦笑しました。たしかにフェラーリに似ていますね。ルビーレーザーでのしみ取りは、狭く渋滞した日本の公道を、大排気量のフェラーリでドロンドロンと大げさな音をたてて走るのに似ています。


ルビーレーザーのメリットとして、よく主張されるのが、「ルビーレーザーの波長は、ヘモグロビンによる吸収が少なく、血管にダメージを生じません」です。


上図のルビーのところを見ると、ルビーの波長では、メラニンとヘモグロビンの吸収波長の比が小さいことがわかります。
しかし、これもおかしな話で、下図の皮膚の構造のイラストを見ていただくと判りますが、しみのメラニンのターゲットは、表皮の再下層、メラニン細胞のあるあたりです。ルビーレーザーの波長は短いので、これより深部には届きません。YAGレーザーでしみを取るときもそうです(1064nmの半波長に変換して用いるので532nm)。ですから、通常のシミ取りでは、ヘモグロビンとの吸収波長の差は問題となりません。血管はしみよりも深部にあるからです。


歴史的、最初に実用化されたレーザーは、ルビーレーザーでした。しかしYAGレーザーが開発されると、産業用・工業用のレーザーはすべてYAGに置き換わってしまいました。前記のような使い勝手の良さゆえにです。
現在、ルビーレーザーが残っているのは、この美容医療領域のみでしょう。その生命線ともいえる理論が、この、ヘモグロビンとメラニンとの吸収波長の比の話です。しかし、それも実は、よく考えてみると、眉唾というか、こじつけっぽい話なんですね。

ルビーレーザーが今なお、医療で使われているもう一つの理由として、いくつかの色素性疾患に対して、保険適応がある、という点があります。YAGレーザーにはありません。

これはなぜかというと、昔(20年位前、レーザーの黎明期)、ルビーレーザーは大変高価だったので、個人医院のマーケットは期待できませんでした。現在のような美容皮膚科の個人クリニックはほとんど無かったのです。それで、病院での購入を促すために、メーカーが積極的に医療機器としての申請と、治験を行って、保険適応を通した、という事情があります。保険適応があれば、国公立の大病院への導入に有利です。YAGレーザーは、その当時から安価で(それでも1700万円くらいしたそうですが)、ルビーレーザーよりも売れ行きが良かったので、メーカーはそういう戦略を取りませんでした。

保険適応におけるルビーレーザーのメリットはそういう経緯で生じました。ですから、現在でも、保険診療を行っているお医者さんにとっては、ルビーレーザーのメリットはあります。この点が、Qルビーが産業界で廃れたあとも医療業界で生き残っている最大の理由だと思います。

しかし、しつこく記しますが、機械としてのQルビーのQYAGに対する優位性は、ありません
私は、開業前に、Qスイッチレーザーとして、ルビーにしようかYAGにしようか、随分悩みました。そして、それなりの書籍を読み、この吸収波長の話について疑問を抱いて、メーカーの方に質問しました。しかし納得のいく答えが返って来なかったので、結局YAGレーザーを選びました。
大正解だったと思います。YAGレーザーはルビーに比べると、非常に軽快で使い勝手がいいし、波長の切り替えで、太田母斑様色素斑や肝斑、さらに、炎症後の色素沈着対策にまで使えるからです。

下図のようなしみ(肝斑合併)に対して、

まず、下図のように、細かなしみを532nm波長で取り、

そのあと、1064nm波長を用いたカーボンレーザーピーリングで肝斑および、532nm照射後の「戻りじみ」を薄くしていく、といった作業は、ルビーレーザーでは出来ません(下写真は5回終了時点。さらに繰り返すと、もっと薄くなっていきます(→こちら)。)

一方、ルビーレーザーでも取れるしみというのは、下写赤矢印のような斑状の大きなしみです。もちろんYAGレーザーでも取れます。当たり前ですが念のため。
下写真は、YAGレーザーで斑状のしみを取ったbrfore/afterです。細かいそばかす状のしみも一緒に取っていますが。

お二人とも、「著効例」でもなんでもなく、たまたま昨日いらっしゃったお客さんに、写真使用許可いただいて掲載したまでです。しみ取りのお客さんはとても多いし、「取れて当たり前」です。わざわざ探さなくても、同様の写真ならいくらでも提示できます。
 
上記のQスイッチルビーレーザー万歳!の先生は、年末の皮膚科の地方会で、美容皮膚科のことをあまり知らない若手皮膚科医に向けてでしょう、演題を出して学会報告をする御予定のようです。

誤った知識が広められるのを見過ごすのは忍びませんから、私も出席して、上記の、

(1)3準位レーザーとしての限界についてどう考えるのか?
(2)ヘモグロビン吸収波長の話の詭弁についての指摘(もし引用されたらですが)
(3)「戻りじみ」対策についてどうしているのか?(パルス幅の広いルビーレーザーでは、理論上も実際も、炎症後色素沈着(戻りじみ)が強く出ます)

について、質問してみたいと考えています。

繰り返し記しますが、しみを取るのは、とくに斑状の大きなしみであれば、出力設定さえ誤らなければ、どの機種でも、また、誰にでも出来ることです。

医者の腕の見せどころは、肝斑など、取りにくいとされているものにどれだけ対処できるか?また、人によっては炎症後色素沈着(戻りじみ)が強く出ますが、そのときの対処、すなわち、ハイドロキノン軟膏はちゃんと自家製のものを処方しているか?カーボンレーザーピーリングなどの手段・ノウハウを持っているか?(→こちら)、にあります。

口だけ、というか、ホームページやブログの文章の勢いだけが景気のいい医者を信用してはいけません。内容をしっかり読み込んでください。
「肝斑はレーザートーニングでは良くなりません」とか、「戻りじみが出たら待っているしかないです」というのは、単に勉強不足なだけです。また、そういう医者に限って、自分の勉強不足をごまかすためなのか、「エビデンス、エビデンス」と言いますが、お前は、本当にレーザートーニングについて、英語文献を検索したことがあるのか?レーザーについての基礎工学の本を一冊でも通読したことがあるのか?と問いたい。
「エビデンス」という言葉を使うならば、まずは自分でしっかり調べて理解してからにしろよ。勉強不足な自分が知らない=エビデンスが無い、じゃないぞ。どっかの「大御所」だかの先生の偏った意見の受け売りなどエビデンスでも何でもありません。

本当は、わたしはこの記事は書きたくなかったのです。始めに書いたように、「普通のしみを取る分には、Qスイッチ機構が付いていれば、ルビー・アレキサンドライト・YAGのどのレーザーでも結果に変わりはありません」で、流しておきたかったです。ルビーレーザーに賭けて開発して、QYAG並みの安価化にも成功し、保険適応のメリットで、何とかQルビーレーザーの製造販売を続けている会社や技術者の人たちを思えばこそです。
QYAGのメーカーが、今更太田母斑の保険適応を取ろうと、治験に投資するとは思えません(費用対収益が割に合わない)。だからQルビーは必要なんです。
この美容外科業界で、少し造詣の深い医者なら、以上に記したことは、皆、承知してはいても口には出さない暗黙の約束で、紳士協定のようなものです。だから、だれも「ルビーとYAGとどちらが優れているか?」なんて議論しようとはしません。
空気を読め!
と言いたい。今回の記事は、書き終わってもどうにも後味が悪いです。Qルビーのメーカーの方々、本当に御免なさい。太田母斑などの色素疾患を健康保険で通しておいたあなたがたの判断は本当に賢明だったし、患者にも貢献しています。その点だけでも、引き続きQルビーの存在意義というか、メリットは十分です。今後も保険診療を併用している先生方に売れ続けることでしょう。

(注) 「メラノソームの熱緩和時間は50nsecである」と成書には記されていることが多いですが、この50nsecというのは、Selective photothermolysisの理論を初めて提唱したDr. Rox R Andersonによる、メラノソームを0.5×1.0μmの楕円形としたときの理論的計算値です(Science Vol.220 p524-)。実際のメラノソームのサイズは様々で、その分布は正規分布でしょう。パルス幅20nsecで熱緩和時間を越えてしまうメラノソームも当然ありえます。
(2012年9月30日記)

肝斑の治療について : レーザーカーボンピーリング(またはレーザートーニング)



世の中には、いろいろな見解があるもので、

「肝斑は、慢性刺激性炎症性色素沈着症、すなわち、こすりすぎによる炎症性色素沈着である。こすりすぎをやめさせることの指導とトラネキサム酸内服のみの『保存的治療』だけで肝斑は治ってしまうので他の治療法を行う必要がない。」

という極端な意見の医師もいるようです。

これは、ある意味、便利な意見で、この見解に従えば、医者は患者に

「私が処方するトラネキサム酸を服用して、肌をこすらないようにしてください。そうすれば肝斑は必ず治ります。もし治らなかったら、それはあなたが、肝斑の部をこすったからです。」

と言って済ますことが出来ます。女性は、お化粧のたびに頬を指でこする、なぞるような作業をせざるを得ないので、そのせいにしてしまえばいいということになります。肝斑の治療をいろいろ工夫する気の無い、あるいは肝斑を治すツールや技術・ノウハウを持ち合わせていない医師が飛びつきそうな話です。

形成外科の医師が、上記のような見解にとどまるのは、まあ、手術が専門ですから、仕方ないかな、とも思うのですが、皮膚科、とくに美容皮膚科を掲げる医師が、このような消極的で姑息な意見に迎合するのは、ちょっと許せないですね。

肝斑というのは、レーザーカーボンピーリング(あるいはレーザートーニングと呼ばれる施術も原理は同じ)で、かなり改善させることが可能です。


私が、「レーザーカーボンピーリングで肝斑治療が可能」という話を聞いたのは、開業前の2002年頃、韓国のレーザーメーカーの招待で見学に行った際のことでした。現「クリニックF」院長の藤本先生が、たまたま同行していらっしゃって、「レーザーカーボンピーリングで肝斑が治療可能らしい」と教えてくれました。(藤本先生は、レーザー好きが高じて、現在工学部の博士課程でレーザーの研究をしていらっしゃいます。藤本先生の肝斑治療のページは→こちら
本当かなあ?と、俄かには信じ難かったのですが、その後、自分でもこの施術をするようになって、確かに施術すればするほど色が薄くなっていくことがよく解りました。

ただし、効果が出始めるまでには、回数が必要です(1か月に1回×最低でも5回)。多くの方は5回目までにまず「実感」します。実感というのは、写真を撮影して比較しても前後で差がはっきりしなくても、患者自身が「薄くなってきた」と訴え始めるということです。お化粧で肝斑を隠すときの手間が少なくて済む、といったことで「自覚」するようです。

通常、7~8回くらいからは、はっきりと写真上も変化してきます。上に示した写真は、決して「著効例」ではありません。当院での標準的な経過です(この記事を書こうと思い立って、たまたま今日いらっしゃっていたお客様の写真を、御諒解いただいて使わせてもらいました)。

最初、レーザーカーボンピーリングで肝斑が改善するという話には、半信半疑だったので、いわゆる東大式のトレチノイン・ハイドロキノン療法を、開院して最初の頃にはやっていました(→こちら)。しかし、だんだんレーザーカーボンピーリングのほうが優れていると判ってきて、現在は、肝斑治療は、全面的に移行しました。

2008年になって、タイのDr. Niwat Polnikornが、Journal of Cosmetic Laser Therapyという雑誌に、Treatment of refractory dermal melisma with the MedLiteC6 Q-switch Nd:YAG laser: Two case reportsという論文を上梓しました。いわゆるレーザートーニングです。そのあと湘南鎌倉病院形成外科・美容外科の山下先生が中心となって、これを検証し、日本人での施術プロトコールが定着しました。2010-2011だけでも10編の医学論文が出て、世界各国で検証されています(→こちら)。

レーザートーニングは、レーザーカーボンピーリングからカーボンを除いたような施術です。山下先生は、ご自身の報告で「肝斑が悪化した症例はありません」と記していらっしゃいますが、実際には他院では、レーザートーニングで肝斑が濃くなってしまう例はあるようです。私は、それは、施術のエネルギーが強すぎるためだと思います。

なぜそう考えるかというと、私は2種類のQ-YAGレーザーのユーザーなのですが、以前MedLiteⅡという機種で、レーザーカーボンピーリングを行っていた時には、肝斑が一時的に濃くなるケースは確かにありました(3~4回目くらい)。しかし、それは、続けていくとある時点(5回目超えたころ)で折り返して、こんどは薄くなっていきます。

この現象は、最初スタッフへの施術で経験しました。たまたま、うちのスタッフの関心事は、肝斑ではなく、毛穴だったので、多少肝斑が色濃くなっても、毛穴を引き締めたいという希望で、施術を続けました。すると、回数を重ねていくと、肝斑は薄くなりはじめ、10回ほどやったころには、かなり改善していました。

それで、患者のかたには「一時的に濃くなることがありますが、それを超えると薄くなっていきますから、心配しないでください。」と説明することにしました。なので、結果的にクレームは一件もありません。

数年前、C6を導入して、これでレーザーカーボンピーリングを始めたところ、この「一時的に濃くなる」ケースがまったくありません。しかし、肝斑はちゃんと薄くなっていきます。

これは、MedLiteⅡのビームプロファイルがガウシアンで、C6はトップハットであることによると私は考えます(両機種のビームプロファイルの解説は→こちら)。

同じ照射エネルギーでも、ガウシアンでは、中心部のエネルギーが強く出ます。トップハットは均一です。それで、ガウシアンのMedLiteⅡでは、一時的な色素の増強が起きるが、トップハットのC6では起きないのでしょう。

レーザートーニングの出力設定は、Dr. Niwat Polnikornの論文では3.4J/cm3、山下先生の推奨は2.8―3.4 J/cm3です。1週間に1度×4回が1クールです。短期に集中して高エネルギーを加えるわけです。

一方、レーザーカーボンピーリングの照射エネルギーは高くても2~2.5J/cm3、私のクリニックでの基本は1.3 J/cm3です。カーボンクリームを外用してその上からレーザーを照射するので、カーボンに当たったレーザー光が、熱などのエネルギーに変換されて皮膚に作用することを考えると、レーザートーニングよりも、どうしても低く設定せざるを得ません。この低い設定値が幸いしたのでしょう、結果的に現在に至るまで、一例のトラブルも無く、カーボンレーザーピーリングによる肝斑治療が出来ています。

私は、レーザートーニングの施術はしないのですが(C6のあるクリニックということで、ネットで調べて、レーザートーニングを希望していらっしゃるお客様もいますが、基本的にレーザーカーボンピーリングのメリットを説明して、勧めています)、レーザートーニングにおいても、より低出力で間隔を空けるようにすれば、一時的な色素増強は回避できそうな気がします。また、色が濃くなってきても、そのまま続行すれば、私の経験からは、かならず折り返して、白くなり始めますから、その点の説明も重要だと思います。

肝斑治療の裏ワザ的テクニックをもう一つ。


この方は、目周りの肝斑で、しみなのか、部分的に肝斑の濃いスポットなのか、そばかす上の「色むら」があります。

このようなケースの場合、まず、濃いそばかす状のスポットを、532nm波長、直径2㎜スポットの通常のシミ取りモードで、焼いて取ってしまいます。下の写真は一週間後、純然たる肝斑のみが残りました。


このあと、レーザーカーボンピーリングを繰り返していきます。下の写真は5回終了時。


下の写真はたまたま一年後来院されたときのものです。


肝斑で色の濃淡がはっきりしている場合、濃い部分を、小さなスポットサイズで点状に焼いた場合、周辺の薄い肝斑は影響を受けません(肝斑を大きく面として焼いてしまうと、全体的に炎症後の色素沈着(戻りじみ)が強く出て、それが退いたころには、元の肝斑に戻ってしまいます)。
この手法は、私のオリジナルと悦に入っていたのですが、数年前に美容外科の学会で、どなただったか思い出せなくて恐縮ですが、似た内容のことが発表されていました。皆、結局似たような結論に辿り着くんですね。

普通のしみっていうのは、「取れて当たり前なんです。医者の腕の見せ所は、普通では取れにくい肝斑などの色素沈着をどうするか、です。

普通のしみ取りは、私の場合、年間1000~2000例はやってますから、通算で開業以来1万例は超えているでしょう。もう、なんというか、私にとっては仕事というより日課のようなものです。

街歩いていても、テレビ見ていても、しみがある人を見ると条件反射的に、取りたくなってしまいます。これはスタッフも同じのようで、松坂屋などにお弁当買いに行ったときなど、綺麗に着飾った方が、お顔のしみを一生懸命お化粧で隠して歩いているのを見かけると、ついつい声をかけたくなってしまって、自分を抑えるのが辛いそうです。職業病ですね。

近々、もう一台、QスイッチYAGレーザーを購入します。トータルで3台になります。

医者が私一人なのに、QスイッチYAGレーザーばかり3台揃えてどうするんだ?と不思議がる方もいるでしょうが、このレーザーは、応用が効いて奥が深いのです。藤本先生のように、工学部に編入して本格的にレーザーの研究をするまでには及びませんが、ちょっと思いついたことがあって、自分で少し工夫して、改造してみようと計画しています(男の子ですからね、こういうこと大好きです)。
(2012年9月28日記)

関連記事→「肝斑にレーザートーニングすると悪化することがある」  

やや大きなほくろの取り方―皮弁による方法


 ほくろの取り方には、炭酸ガスレーザーによる方法(→こちら)と QスイッチYAGレーザー(1064nm波長)による方法(→こちら)があることを解説しました。
 これらはいずれもレーザーを用いて取る方法ですが、昔ながらのというか、外科的に切除して縫い合わせる方法のほうが、きれいに仕上がる場合もあります。それは、ほくろが、やや大きい(盛り上がっているかどうかではなく、面積が広範囲ということ)場合です。
 今回は、うちのスタッフのお孫さんの首のほくろを何とかしてくれ、と頼まれたので紹介します。

こんな感じの顎下にあるほくろです。QスイッチYAGレーザーで取れる深さではないし、炭酸ガスレーザーだと、この大きさでこの部位は、瘢痕が残るでしょう。

それで外科的に切除したあと、皮弁を回転させて、修復することにしました。上図はデザインです。

手術が終わったところ。

ちょっと解りにくいと思うので解説します。上のイラストのように、皮膚を回転させて、ほくろを取ったあとの創面をパッチワーク的に覆ったわけです。この方法(回転皮弁といいます)だと、単純に紡錘形に切って縫い合わせるよりも、傷の長さが短く済み、跡が目立ちません。



一週間後、抜糸前です。


 1ヶ月後です。縫い合わせた跡はまだ赤いです。テープのあとが正方形に見えますが、術後(抜糸後)は、最低6ヶ月、できれば2年くらい、テーピングをして、皮弁の収縮による盛り上がりを予防します。
こんな感じです。

これは4ヶ月目。赤みもとれてきて、皮弁の収縮による盛り上がりもなく、良好な経過です。この経過なら、たぶん一年もすれば、まったく傷はわからなくなることでしょう。

 さて、今回紹介した、皮弁によるやや大きなほくろの形成手術ですが、実は、当院のメニューとしては掲げてないです。

 というのは、この大きさのほくろであれば、形成外科の専門医の先生のところに行けば、たぶん「あざ」として、保険診療の適応があるだろうからです。

 眼瞼下垂の手術についての私のポリシーの記事(→こちら)中でも書きましたが、私は、保険診療の適応がある手術については、形成外科の専門医の先生にお願いすることにしています。わたしが、今回、スタッフのお孫さんの写真で紹介したのは、あくまで、やや大きめのほくろは、外科手術のほうが綺麗に治る場合がありますよ、という情報提供のためです。

 私が、保険診療を掲げない理由のひとつに、私がもともと皮膚科医(皮膚科専門医)だから、という事情があります。

 単に技術的な側面からは、こういった皮弁形成の手術などは、総合病院に長く勤務していた皮膚科医であれば日常的な手術ですから(もっとも最近は形成外科と皮膚科の分担がかなりはっきりしてきて、粉瘤(アテローム)手術さえ、皮膚科医は手を出さず形成外科に送るという話も聞きますが)、やろうと思えば、普通にできますし、必ずしも形成外科の先生に腕が劣るとも思いません。

 しかし、保険診療という問題があります。保険診療の仕組みは、ご存じない方が多いと思いますが、各科ごとに、患者1人あたりの点数の平均(患者単価)という目安があって、それが他の医師たちと比べて極端に高いと、是正指導があります。

 形成外科の開業医は、手術が多いでしょうから、患者単価は一般的に高くなります。皮膚科は手術をしない先生が圧倒的に多いですから、患者単価は低いです。そのような状況で、皮膚科を標榜して開業して手術を行えば、その先生の患者単価は、ほかの皮膚科医たちに比べて極端に高くなりますから、厳しい是正指導があります。

 結果的に、仮に総合病院で皮膚外科的なことを多く手がけていて腕に自信のある皮膚科の先生も、開業後は手術からは離れざるを得ません。そういう仕組みなのです。

 これは、一般の人、患者たちにとって、必ずしも不都合な仕組みではありません。
 皮膚悪性腫瘍など、皮膚科がイニシアティブをとって手術を行ったほうが良い皮膚外科的な領域はたしかにあります。そのような患者は総合病院の皮膚外科を受診すればいいし、私が今回紹介した、やや大きなほくろの皮弁形成手術などは、開業した形成外科専門医の先生が担当すればいいです。
 わたしのような皮膚科専門医の先生は、多少腕に覚えがあっても、手術以外の一般皮膚科で開業するか、保険診療でカバーされない領域についての自由診療で開業すればいいです。皮膚科を標榜する開業医が、わざわざ保険診療の小手術に力を入れるメリットは、医師の側にも社会にもありません。

 保険診療をも行っているにも関わらず、「当院でのほくろの手術はすべて自由診療です」とうたっている皮膚科のクリニックがありますが、以上のような事情を反映しています。今回わたしが紹介したスタッフのお孫さんのような、形成外科に行けば公的健康保険の適応となるような症例をも、自院の平均点数を下げるために、自由診療に誘導する傾向が出てしまいます。

 粉瘤(アテローム)や脂肪腫、やや大きなほくろの皮弁手術など、公的健康保険適応のある小手術は、形成外科を標榜するまっとうなクリニックで受けることを、わたしはお奨めします。それが正しい社会の仕組みだと考えるからです。
(2012年8月5日記)