多血小板血漿5:PRP療法の「PRP」は本当に「多血小板血漿」か?


多血小板血漿4は→こちら
多血小板血漿6は→こちら
 
 PRP療法のPRPは、platelet rich plasmaの略です。日本語に訳すと「多血小板血漿」または「血小板濃厚血漿」です。
 一般には、下図のように考えられています。
 血液を遠心分離すると、最下層に赤血球が沈殿し、その上に分離フィルター、さらにその上に黄色の上澄みが溜まります。この上澄み(血漿)の上のほうには血小板が少なく、下のほうには血小板が多い(濃縮されている)と解説されていることが多いです。

 しかし・・・
 遠心分離して、血漿(黄色い部分)を上層と下層の二段階に分けて、下層で血小板がどのくらい濃縮されているか、顕微鏡で何度確認しても、血漿の下層で血小板が濃縮されているとは判定しがたいのです・・。

 バッファーコート(上図には示されていませんが、フィルターの直上にある血小板や白血球の沈殿層のこと)には、血小板は沈殿しています。

 遠心分離の条件はいろいろ変えてみました。回転数(すなわち×g)および時間を増やすと、血漿中の血小板密度は、上層(PPP)も下層(PRP)も、減っていきます。沈殿する血小板は増えるけど。

 奥羽大学の福田先生のデータ(→こちら)に似ています。遠心すればするほど、血漿中の血小板収量は少なくなります。「濃縮」はされません。

 果たして、上図のイメージは正しいのか?上図でいうところの「PRP」は、本当に存在するのか?・・

 落ち着いてよーく考えてみました。
 そして、下図のような考えに至りました。
まず、わかりやすく、赤血球が全部沈降した状態から考えます。赤血球の沈降速度は血小板の200倍くらいなので、まず赤血球が全部沈殿し、その時点では血小板はまだほとんど均一に血漿中に分布すると考えていいはずです。

 全ての血小板は同じ速度で沈降する、と仮定します。これは、遠心分離機にかけず、静置した場合にあてはまる条件です。

 血小板は、A→B→C→Dのように沈降していきます。Dにおいて、「PRP」と呼ばれている血漿下方の血小板密度は、Aに比べて大きいでしょうか?

 同じはずです。「濃縮」されてはいません。沈殿部分をいっしょに採れば、濃くなるでしょうが。


 次に、遠心分離の場合を考えます。遠心分離の場合、粒子の沈降速度は、回転半径(R)に比例して大きくなることが知られています(ストークスの式)。
この条件においては、上図のようになります。
 Cの血漿の下半分の血小板密度は、上半分と同じ(または、最上層からまったく血小板が無くなる分を考慮すると、下半分のほうが若干濃い)となり、かつ、最初のAの血小板密度よりも薄くなっていきます・・・。

 一応、数学的に、解説証明してみます。
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遠心半径xの位置にある血小板の沈降速度v=dx/dt=ax
変形して、dx/ax=dt
積分して1/a・lnx=t+C
t=0のときx=x0とすると、C=1/a・lnx0
これを代入して、1/a・lnx=t+1/a・lnx0
x=e^a(t+1/a・lnx0)
(これが、t=0のときx=x0にある血小板のt時間後の沈降位置を示す式)
一方、t=0のときx=x0-1にある血小板は、
同じく1/a・lnx=t+Cに代入して
1/a・lnx=t+1/a・ln(x0-1)
x=e^a(t+1/a・ln(x0-1))
両者の差は、
e^a(t+1/a・lnx0)―e^a(t+1/a・ln(x0-1))
=e^at(e^ln(x0)―e^ln(x0-1))
=e^at
t>0のとき、e^at>1(指数関数なので)
よって、t=0のときに1離れていた血小板は、t>0ではさらに離れていく。

また、t=0のときx=x0+1、x0、x0-1にある3つの血小板を考えたとき、t1時におけるそれらの間隔は、
e^a(t1+1/a・ln(x0+1))―e^a(t1+1/a・lnx0)
=e^at1(e^ln(x0+1)―e^lnx0)
=e^at1
e^a(t1+1/a・lnx0)―e^a(t1+1/a・ln(x0-1))
=e^at1(e^lnx0―e^ln(x0-1))
=e^at1
となり、両者は等しい

グラフにするとこんな感じです。
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 ・・大学教養部レベルの問題かなあ?こういうこと考えるの好きなので、たまーに、おかしなところで、頭をひねくるんですが、もともと出身大学は名市大だし、もう52才だし、ひょっとしたら、間違ってるかもしれません・・。間違いご指摘歓迎します。FAX052-264-0213までよろしくお願いしますm(_ _)m。

 まあ、イメージとしては、遠心された血小板、沈降すればするほど、さらに強い遠心力が働いて、最後はブラックホールに吸い込まれるように沈殿していく、ブラックホールに吸い込まれる直前の血小板が、「濃縮」なんてゆとりな状態には、ありえないって感じです。
 
 実際、顕微鏡でみても、遠心すればするほど、「PRP」と呼ばれている血漿下方部分の血小板密度は、濃縮ではなく、薄くなるようです(沈殿は増えますが)。

 日赤の血小板濃厚液は、どうやって作っているかというと、遠心分離ではあるのですが、バッファーコートの白血球層のほんとに直上、すなわちほとんど「沈殿」部分を採っているようです。
 参考までに動画です。
          (画像または→こちらをクリック)
 
 遠心され、血漿(黄色)、白血球層(=バッファーコートともいう、白色)、赤血球層(赤色)とに分離された血液が、ゆっくりと押し上げられていきます。
 血漿を排出したところで、バルブが切り替わり、白血球層直上の薄い層(血小板のみの沈殿層)を採取します。

 以上から考えると、正しいPRP液の調整の仕方は3つ考えられます・

1)成分採血機で沈殿直上の濃厚血小板層から採取する。

 先日記した通りの方法(→こちら)で、確実に濃厚血小板血漿が採れますが、やや大掛かりです。

2)少量採血したのち、静置または低速遠心で、赤血球のみを沈降させ、血小板はなるべく沈殿させないようにして、血漿を採って使う。

 血小板濃度が全血中30万/μlのひとがいたとします(健常者正常値は15~50万/μlです)。弱い遠心分離(または3時間くらいの静置)によって、赤血球のみが沈殿して血小板が沈殿せず、全血が、6mlの赤血球層と4mlの血漿に分かれたとすると、血小板は結果的に30万個/μlが10/4(=2.5)倍に濃縮されたわけですから、75万個/μlになります。これを用いても、それなりにPRP療法としての効果はありそうです。

3)2)の方法で採った血漿を、もう一度、こんどは高速遠心をかけて、血小板を沈殿させ、上澄みを少量残してあとは捨てた状態で、試験管ミキサーにかけて沈殿を再び浮遊させる。

3)の方法が、いちばん妥当かなあ?・・

ということで、試験管ミキサーを注文しました(^^)。3)の方法を試して顕微鏡で収量を確認してみます。たぶん数日で結果わかるので、また追記しますね。
(2012年2月20日記)