Qスイッチルビーレーザーの致命的な欠点


先回(→こちら)の続きみたいな記事です。

以前から私は、「普通のしみを取る分には、Qスイッチ機構が付いていれば、ルビー・アレキサンドライト・YAGのどのレーザーでも結果に変わりはありません」と繰り返し記してきました。

機械というのは適材適所、というか、術者の使いようによります。機械に罪はありません、というか、より良いレーザー機器の開発に携わっている技術者の方には常日頃、本当に敬意を抱いております。開発技術者の方々のおかげで、こうしてクリニックでしみ取りが出来ているわけですから。

しかし、「しみ取りにはQスイッチルビーレーザーが最高!」みたいな、おかしな誤った情報を根拠もなくネットで垂れ流す医師が現れました。あまりに目に余るので、少し釘をさしておかねば、と考えて、以下の記事を書きました。本邦でQスイッチルビーレーザーを現在の形まで改良を重ねてきた、旧ニーク現エムエムアンドニークまたは渋谷工業技術者の方々、ご容赦ください。

Qスイッチルビーレーザーの致命的な欠点とは、このレーザーが3準位レーザーである、ということです。
・・・なんだか、レーザーの話としてはあまりに初歩的すぎて、書いていて赤面の至りですが。
左が3準位レーザーで右が4準位レーザー(QスイッチYAGレーザーは4準位レーザー)です。一番下のラインが原子の基底状態で、ここに外部から光エネルギーを供給することで(pump)、原子は励起し、これが復するとき(実線の↓)に、レーザー光が出ます。ルビーレーザーでは、励起状態は二つありますが、この低い方のレベルから基底状態に戻るときのレーザー光を用い、YAGレーザーでは、3つある励起状態の下2つを移行するときのレーザー光を用います。

基底状態と励起状態とでは、原子は、基底状態のほうが安定しています。ですから、励起状態⇒基底状態でレーザー光を出すルビーレーザーでは、励起状態⇒励起状態でレーザー光を出すYAGレーザーに比べて、はるかに強いエネルギーを外部から供給してやらなければ、レーザー光が出ません
いったん基底に戻った原子を再び励起させるには強い力が必要ですが、励起した同士を移行させるだけなら、弱い力で済むということです。
なおかつ、レーザー光を放出したあと基底状態に戻ってしまうルビーレーザーでは、次のレーザー光を照射するのにも、大きなエネルギーすなわち長い時間を要します。

ですから、QスイッチルビーレーザーのSPECを見ると、パルス幅は20nsecと長いし、照射間隔は最短でも0.8秒に1回とゆっくりです。QスイッチYAGレーザーだと、パルス幅は6nsecで、照射間隔は毎秒10回が可能です。

外部からの光エネルギー供給(pump)には、フラッシュランプを用いますが、Qルビーでは、これを強力なものにしなければならず、機械は大型化し、コストもかかりました。

昔のQスイッチルビーレーザーが3千万円以上したのは、この光供給部分が高額だったからです。高価な宝石のルビーが使われていたために高額だったのではありません。工業用のルビーというのは、kgあたり1~2万円くらいです(kg当たりですよ、レーザーの発振原として使う量ならせいぜい数百円でしょう)。

ちなみに、YAGとは、ガーネットのことです。美容で使う場合には、「ガーネットレーザー」と言ったほうが、響きはいいかもしれません。もっともこれも工業用ですから、価格は安いです。

話を元に戻して、近年、たぶん、この外部からの光供給部分が、小型・低価格になったので、Qスイッチルビーレーザーの価格がQスイッチYAGレーザー並みに下がってきました。機械の故障頻度も少なくなったようです。
高エネルギーシステムというのは、当然故障も多くなります。昔のQルビーの機械は結露したり故障が多く大変でした。しかし、低価格で故障が少なくなったとはいっても、パルス幅や照射間隔は変わっていません。3準位レーザーの宿命です。

光供給システムのサイズやコストには限界があります。照射間隔を短くしようとすれば、一回の光供給を少なくせざるを得ず、すると、発振時のレーザーのピーク値は低くなりますから、十分な出力のレーザー光を出すには、パルス幅を長く取るしかありません。パルス幅が長くなれば、熱緩和時間(thermal relaxation time)の理論から考えて、当然、細胞内のマイクロレベルの熱ダメージは増えます。すると、炎症後の色素沈着は濃くなります。「20nsecならば、メラニン顆粒の熱緩和時間よりは短い」というのは詭弁に過ぎません。だいたいこういう生体の数値というのは、正規分布するからです。同じエネルギーを与えるなら、20nsecよりも6nsecの照射時間のほうが、細胞のダメージは少なくなるのは当然です()。
照射サイクルが0.8秒で1回が限界となると、1回のスポット径をなるべく大きくして対応せざるをなくなります。パチン・・・パチン・・・と、大きめのスポットでしみを焼いていくってことです。細かいそばかす状のものなど、大小混在したものは取りにくい。それで謳い文句は「大きめの斑状のしみはルビーレーザーで取りましょう!」になる。大きめの斑状のしみがYAGレーザーで取れないのではなく、小さな数多いしみを取るのにルビーレーザーは向かないのです。

「しみ取りにはルビーレーザーが最高!」みたいな、誤った情報発信をしている医師は、ルビーレーザーを、ルビーの赤い色から連想したのでしょう、車のフェラーリに例えています。苦笑しました。たしかにフェラーリに似ていますね。ルビーレーザーでのしみ取りは、狭く渋滞した日本の公道を、大排気量のフェラーリでドロンドロンと大げさな音をたてて走るのに似ています。


ルビーレーザーのメリットとして、よく主張されるのが、「ルビーレーザーの波長は、ヘモグロビンによる吸収が少なく、血管にダメージを生じません」です。


上図のルビーのところを見ると、ルビーの波長では、メラニンとヘモグロビンの吸収波長の比が小さいことがわかります。
しかし、これもおかしな話で、下図の皮膚の構造のイラストを見ていただくと判りますが、しみのメラニンのターゲットは、表皮の再下層、メラニン細胞のあるあたりです。ルビーレーザーの波長は短いので、これより深部には届きません。YAGレーザーでしみを取るときもそうです(1064nmの半波長に変換して用いるので532nm)。ですから、通常のシミ取りでは、ヘモグロビンとの吸収波長の差は問題となりません。血管はしみよりも深部にあるからです。


歴史的、最初に実用化されたレーザーは、ルビーレーザーでした。しかしYAGレーザーが開発されると、産業用・工業用のレーザーはすべてYAGに置き換わってしまいました。前記のような使い勝手の良さゆえにです。
現在、ルビーレーザーが残っているのは、この美容医療領域のみでしょう。その生命線ともいえる理論が、この、ヘモグロビンとメラニンとの吸収波長の比の話です。しかし、それも実は、よく考えてみると、眉唾というか、こじつけっぽい話なんですね。

ルビーレーザーが今なお、医療で使われているもう一つの理由として、いくつかの色素性疾患に対して、保険適応がある、という点があります。YAGレーザーにはありません。

これはなぜかというと、昔(20年位前、レーザーの黎明期)、ルビーレーザーは大変高価だったので、個人医院のマーケットは期待できませんでした。現在のような美容皮膚科の個人クリニックはほとんど無かったのです。それで、病院での購入を促すために、メーカーが積極的に医療機器としての申請と、治験を行って、保険適応を通した、という事情があります。保険適応があれば、国公立の大病院への導入に有利です。YAGレーザーは、その当時から安価で(それでも1700万円くらいしたそうですが)、ルビーレーザーよりも売れ行きが良かったので、メーカーはそういう戦略を取りませんでした。

保険適応におけるルビーレーザーのメリットはそういう経緯で生じました。ですから、現在でも、保険診療を行っているお医者さんにとっては、ルビーレーザーのメリットはあります。この点が、Qルビーが産業界で廃れたあとも医療業界で生き残っている最大の理由だと思います。

しかし、しつこく記しますが、機械としてのQルビーのQYAGに対する優位性は、ありません
私は、開業前に、Qスイッチレーザーとして、ルビーにしようかYAGにしようか、随分悩みました。そして、それなりの書籍を読み、この吸収波長の話について疑問を抱いて、メーカーの方に質問しました。しかし納得のいく答えが返って来なかったので、結局YAGレーザーを選びました。
大正解だったと思います。YAGレーザーはルビーに比べると、非常に軽快で使い勝手がいいし、波長の切り替えで、太田母斑様色素斑や肝斑、さらに、炎症後の色素沈着対策にまで使えるからです。

下図のようなしみ(肝斑合併)に対して、

まず、下図のように、細かなしみを532nm波長で取り、

そのあと、1064nm波長を用いたカーボンレーザーピーリングで肝斑および、532nm照射後の「戻りじみ」を薄くしていく、といった作業は、ルビーレーザーでは出来ません(下写真は5回終了時点。さらに繰り返すと、もっと薄くなっていきます(→こちら)。)

一方、ルビーレーザーでも取れるしみというのは、下写赤矢印のような斑状の大きなしみです。もちろんYAGレーザーでも取れます。当たり前ですが念のため。
下写真は、YAGレーザーで斑状のしみを取ったbrfore/afterです。細かいそばかす状のしみも一緒に取っていますが。

お二人とも、「著効例」でもなんでもなく、たまたま昨日いらっしゃったお客さんに、写真使用許可いただいて掲載したまでです。しみ取りのお客さんはとても多いし、「取れて当たり前」です。わざわざ探さなくても、同様の写真ならいくらでも提示できます。
 
上記のQスイッチルビーレーザー万歳!の先生は、年末の皮膚科の地方会で、美容皮膚科のことをあまり知らない若手皮膚科医に向けてでしょう、演題を出して学会報告をする御予定のようです。

誤った知識が広められるのを見過ごすのは忍びませんから、私も出席して、上記の、

(1)3準位レーザーとしての限界についてどう考えるのか?
(2)ヘモグロビン吸収波長の話の詭弁についての指摘(もし引用されたらですが)
(3)「戻りじみ」対策についてどうしているのか?(パルス幅の広いルビーレーザーでは、理論上も実際も、炎症後色素沈着(戻りじみ)が強く出ます)

について、質問してみたいと考えています。

繰り返し記しますが、しみを取るのは、とくに斑状の大きなしみであれば、出力設定さえ誤らなければ、どの機種でも、また、誰にでも出来ることです。

医者の腕の見せどころは、肝斑など、取りにくいとされているものにどれだけ対処できるか?また、人によっては炎症後色素沈着(戻りじみ)が強く出ますが、そのときの対処、すなわち、ハイドロキノン軟膏はちゃんと自家製のものを処方しているか?カーボンレーザーピーリングなどの手段・ノウハウを持っているか?(→こちら)、にあります。

口だけ、というか、ホームページやブログの文章の勢いだけが景気のいい医者を信用してはいけません。内容をしっかり読み込んでください。
「肝斑はレーザートーニングでは良くなりません」とか、「戻りじみが出たら待っているしかないです」というのは、単に勉強不足なだけです。また、そういう医者に限って、自分の勉強不足をごまかすためなのか、「エビデンス、エビデンス」と言いますが、お前は、本当にレーザートーニングについて、英語文献を検索したことがあるのか?レーザーについての基礎工学の本を一冊でも通読したことがあるのか?と問いたい。
「エビデンス」という言葉を使うならば、まずは自分でしっかり調べて理解してからにしろよ。勉強不足な自分が知らない=エビデンスが無い、じゃないぞ。どっかの「大御所」だかの先生の偏った意見の受け売りなどエビデンスでも何でもありません。

本当は、わたしはこの記事は書きたくなかったのです。始めに書いたように、「普通のしみを取る分には、Qスイッチ機構が付いていれば、ルビー・アレキサンドライト・YAGのどのレーザーでも結果に変わりはありません」で、流しておきたかったです。ルビーレーザーに賭けて開発して、QYAG並みの安価化にも成功し、保険適応のメリットで、何とかQルビーレーザーの製造販売を続けている会社や技術者の人たちを思えばこそです。
QYAGのメーカーが、今更太田母斑の保険適応を取ろうと、治験に投資するとは思えません(費用対収益が割に合わない)。だからQルビーは必要なんです。
この美容外科業界で、少し造詣の深い医者なら、以上に記したことは、皆、承知してはいても口には出さない暗黙の約束で、紳士協定のようなものです。だから、だれも「ルビーとYAGとどちらが優れているか?」なんて議論しようとはしません。
空気を読め!
と言いたい。今回の記事は、書き終わってもどうにも後味が悪いです。Qルビーのメーカーの方々、本当に御免なさい。太田母斑などの色素疾患を健康保険で通しておいたあなたがたの判断は本当に賢明だったし、患者にも貢献しています。その点だけでも、引き続きQルビーの存在意義というか、メリットは十分です。今後も保険診療を併用している先生方に売れ続けることでしょう。

(注) 「メラノソームの熱緩和時間は50nsecである」と成書には記されていることが多いですが、この50nsecというのは、Selective photothermolysisの理論を初めて提唱したDr. Rox R Andersonによる、メラノソームを0.5×1.0μmの楕円形としたときの理論的計算値です(Science Vol.220 p524-)。実際のメラノソームのサイズは様々で、その分布は正規分布でしょう。パルス幅20nsecで熱緩和時間を越えてしまうメラノソームも当然ありえます。
(2012年9月30日記)

肝斑の治療について : レーザーカーボンピーリング(またはレーザートーニング)



世の中には、いろいろな見解があるもので、

「肝斑は、慢性刺激性炎症性色素沈着症、すなわち、こすりすぎによる炎症性色素沈着である。こすりすぎをやめさせることの指導とトラネキサム酸内服のみの『保存的治療』だけで肝斑は治ってしまうので他の治療法を行う必要がない。」

という極端な意見の医師もいるようです。

これは、ある意味、便利な意見で、この見解に従えば、医者は患者に

「私が処方するトラネキサム酸を服用して、肌をこすらないようにしてください。そうすれば肝斑は必ず治ります。もし治らなかったら、それはあなたが、肝斑の部をこすったからです。」

と言って済ますことが出来ます。女性は、お化粧のたびに頬を指でこする、なぞるような作業をせざるを得ないので、そのせいにしてしまえばいいということになります。肝斑の治療をいろいろ工夫する気の無い、あるいは肝斑を治すツールや技術・ノウハウを持ち合わせていない医師が飛びつきそうな話です。

形成外科の医師が、上記のような見解にとどまるのは、まあ、手術が専門ですから、仕方ないかな、とも思うのですが、皮膚科、とくに美容皮膚科を掲げる医師が、このような消極的で姑息な意見に迎合するのは、ちょっと許せないですね。

肝斑というのは、レーザーカーボンピーリング(あるいはレーザートーニングと呼ばれる施術も原理は同じ)で、かなり改善させることが可能です。


私が、「レーザーカーボンピーリングで肝斑治療が可能」という話を聞いたのは、開業前の2002年頃、韓国のレーザーメーカーの招待で見学に行った際のことでした。現「クリニックF」院長の藤本先生が、たまたま同行していらっしゃって、「レーザーカーボンピーリングで肝斑が治療可能らしい」と教えてくれました。(藤本先生は、レーザー好きが高じて、現在工学部の博士課程でレーザーの研究をしていらっしゃいます。藤本先生の肝斑治療のページは→こちら
本当かなあ?と、俄かには信じ難かったのですが、その後、自分でもこの施術をするようになって、確かに施術すればするほど色が薄くなっていくことがよく解りました。

ただし、効果が出始めるまでには、回数が必要です(1か月に1回×最低でも5回)。多くの方は5回目までにまず「実感」します。実感というのは、写真を撮影して比較しても前後で差がはっきりしなくても、患者自身が「薄くなってきた」と訴え始めるということです。お化粧で肝斑を隠すときの手間が少なくて済む、といったことで「自覚」するようです。

通常、7~8回くらいからは、はっきりと写真上も変化してきます。上に示した写真は、決して「著効例」ではありません。当院での標準的な経過です(この記事を書こうと思い立って、たまたま今日いらっしゃっていたお客様の写真を、御諒解いただいて使わせてもらいました)。

最初、レーザーカーボンピーリングで肝斑が改善するという話には、半信半疑だったので、いわゆる東大式のトレチノイン・ハイドロキノン療法を、開院して最初の頃にはやっていました(→こちら)。しかし、だんだんレーザーカーボンピーリングのほうが優れていると判ってきて、現在は、肝斑治療は、全面的に移行しました。

2008年になって、タイのDr. Niwat Polnikornが、Journal of Cosmetic Laser Therapyという雑誌に、Treatment of refractory dermal melisma with the MedLiteC6 Q-switch Nd:YAG laser: Two case reportsという論文を上梓しました。いわゆるレーザートーニングです。そのあと湘南鎌倉病院形成外科・美容外科の山下先生が中心となって、これを検証し、日本人での施術プロトコールが定着しました。2010-2011だけでも10編の医学論文が出て、世界各国で検証されています(→こちら)。

レーザートーニングは、レーザーカーボンピーリングからカーボンを除いたような施術です。山下先生は、ご自身の報告で「肝斑が悪化した症例はありません」と記していらっしゃいますが、実際には他院では、レーザートーニングで肝斑が濃くなってしまう例はあるようです。私は、それは、施術のエネルギーが強すぎるためだと思います。

なぜそう考えるかというと、私は2種類のQ-YAGレーザーのユーザーなのですが、以前MedLiteⅡという機種で、レーザーカーボンピーリングを行っていた時には、肝斑が一時的に濃くなるケースは確かにありました(3~4回目くらい)。しかし、それは、続けていくとある時点(5回目超えたころ)で折り返して、こんどは薄くなっていきます。

この現象は、最初スタッフへの施術で経験しました。たまたま、うちのスタッフの関心事は、肝斑ではなく、毛穴だったので、多少肝斑が色濃くなっても、毛穴を引き締めたいという希望で、施術を続けました。すると、回数を重ねていくと、肝斑は薄くなりはじめ、10回ほどやったころには、かなり改善していました。

それで、患者のかたには「一時的に濃くなることがありますが、それを超えると薄くなっていきますから、心配しないでください。」と説明することにしました。なので、結果的にクレームは一件もありません。

数年前、C6を導入して、これでレーザーカーボンピーリングを始めたところ、この「一時的に濃くなる」ケースがまったくありません。しかし、肝斑はちゃんと薄くなっていきます。

これは、MedLiteⅡのビームプロファイルがガウシアンで、C6はトップハットであることによると私は考えます(両機種のビームプロファイルの解説は→こちら)。

同じ照射エネルギーでも、ガウシアンでは、中心部のエネルギーが強く出ます。トップハットは均一です。それで、ガウシアンのMedLiteⅡでは、一時的な色素の増強が起きるが、トップハットのC6では起きないのでしょう。

レーザートーニングの出力設定は、Dr. Niwat Polnikornの論文では3.4J/cm3、山下先生の推奨は2.8―3.4 J/cm3です。1週間に1度×4回が1クールです。短期に集中して高エネルギーを加えるわけです。

一方、レーザーカーボンピーリングの照射エネルギーは高くても2~2.5J/cm3、私のクリニックでの基本は1.3 J/cm3です。カーボンクリームを外用してその上からレーザーを照射するので、カーボンに当たったレーザー光が、熱などのエネルギーに変換されて皮膚に作用することを考えると、レーザートーニングよりも、どうしても低く設定せざるを得ません。この低い設定値が幸いしたのでしょう、結果的に現在に至るまで、一例のトラブルも無く、カーボンレーザーピーリングによる肝斑治療が出来ています。

私は、レーザートーニングの施術はしないのですが(C6のあるクリニックということで、ネットで調べて、レーザートーニングを希望していらっしゃるお客様もいますが、基本的にレーザーカーボンピーリングのメリットを説明して、勧めています)、レーザートーニングにおいても、より低出力で間隔を空けるようにすれば、一時的な色素増強は回避できそうな気がします。また、色が濃くなってきても、そのまま続行すれば、私の経験からは、かならず折り返して、白くなり始めますから、その点の説明も重要だと思います。

肝斑治療の裏ワザ的テクニックをもう一つ。


この方は、目周りの肝斑で、しみなのか、部分的に肝斑の濃いスポットなのか、そばかす上の「色むら」があります。

このようなケースの場合、まず、濃いそばかす状のスポットを、532nm波長、直径2㎜スポットの通常のシミ取りモードで、焼いて取ってしまいます。下の写真は一週間後、純然たる肝斑のみが残りました。


このあと、レーザーカーボンピーリングを繰り返していきます。下の写真は5回終了時。


下の写真はたまたま一年後来院されたときのものです。


肝斑で色の濃淡がはっきりしている場合、濃い部分を、小さなスポットサイズで点状に焼いた場合、周辺の薄い肝斑は影響を受けません(肝斑を大きく面として焼いてしまうと、全体的に炎症後の色素沈着(戻りじみ)が強く出て、それが退いたころには、元の肝斑に戻ってしまいます)。
この手法は、私のオリジナルと悦に入っていたのですが、数年前に美容外科の学会で、どなただったか思い出せなくて恐縮ですが、似た内容のことが発表されていました。皆、結局似たような結論に辿り着くんですね。

普通のしみっていうのは、「取れて当たり前なんです。医者の腕の見せ所は、普通では取れにくい肝斑などの色素沈着をどうするか、です。

普通のしみ取りは、私の場合、年間1000~2000例はやってますから、通算で開業以来1万例は超えているでしょう。もう、なんというか、私にとっては仕事というより日課のようなものです。

街歩いていても、テレビ見ていても、しみがある人を見ると条件反射的に、取りたくなってしまいます。これはスタッフも同じのようで、松坂屋などにお弁当買いに行ったときなど、綺麗に着飾った方が、お顔のしみを一生懸命お化粧で隠して歩いているのを見かけると、ついつい声をかけたくなってしまって、自分を抑えるのが辛いそうです。職業病ですね。

近々、もう一台、QスイッチYAGレーザーを購入します。トータルで3台になります。

医者が私一人なのに、QスイッチYAGレーザーばかり3台揃えてどうするんだ?と不思議がる方もいるでしょうが、このレーザーは、応用が効いて奥が深いのです。藤本先生のように、工学部に編入して本格的にレーザーの研究をするまでには及びませんが、ちょっと思いついたことがあって、自分で少し工夫して、改造してみようと計画しています(男の子ですからね、こういうこと大好きです)。
(2012年9月28日記)

関連記事→「肝斑にレーザートーニングすると悪化することがある」