PRP療法の漫画描いてみました


PRP療法の漫画描いてみました。





どうかな?・・スタッフには「解りやすい」と受けたんですが(^^;。
 血小板が、なぜ小じわを減らして張りを持たせるかというと、血小板から放出されるPDGFなどの各種成長因子の働きによります。皮膚には、繊維芽細胞という、コラーゲンを作ってくれる職人さんのような細胞がいるのですが、PDGF等は、この細胞を刺激・活性化します。いったんPDGFで活性化された繊維芽細胞は、その後数ヶ月コラーゲンの産生を続けます(autocrine機構といって、自分自身で成長因子を出すことにより、活性化が維持される)。

 ヒアルロン酸、あるいはコラーゲンの注射と血小板(PRP療法)との違いは、

1) ヒアルロン酸やコラーゲン注射は、打った直後に打った部位だけが膨らみとなることによって、しわを消す。

 分子量が大きいので、周辺に拡散しにくいです。ですから、打つ人(術者)の技量に大きく左右されるし、細かい小じわには、向きません。法令線など、大きめのしわのボリュームを出すのに用います。血小板から放出される成長因子は、分子量が小さいので、注射部位から同心円状に広く拡散します。

2) ヒアルロン酸やコラーゲンは、注射直後がボリュームのピークで、その後半年から一年で吸収分解されますが、PRP療法によって、自己繊維芽細胞が作り出すコラーゲンは、まったくの自己組織なので、持ちが長い(数年と考えられている)。

 ただし、結果が出るまでには、1~2ヶ月かかります。「繊維芽三郎」おじさんが、せっせとコラーゲンを紡ぐのですが、毎日毎日の仕事は少しづつで、製品がたまるまでに時間がかかるということです。

 さて、私は、以前、保険診療の世界にいたころは、一時期アトピー性皮膚炎の診療に没頭していました。アトピー性皮膚炎では、炎症が退いたあと、首などに小じわが残ることがあります。昔の知人の先生から「アトピーはかなり良くなったのだが、首の小じわを気にしている人がいる。先生の美容皮膚科のノウハウでなんとかならないか?」と、紹介を受けました。

PRP施術前

2カ月後

改善がみられました。拡大すると、

以前紹介した、うちのスタッフの「首の鳥肌状の皮膚」(→こちら)と比べてみます。

 加齢のほうは、皮膚付属器(汗線や毛嚢など)を残して(だからブツブツに見える)、その間の真皮が萎縮していますが、アトピーの首の場合は、皮溝と皮丘との差が増強されることによって小じわが目立っている感じです。

 アトピー性皮膚炎の治療には、副腎皮質ステロイドの外用剤を用いることが多いのですが、この薬剤には、真皮の繊維芽細胞を抑制して、真皮を委縮させる作用があります(アトピー性皮膚炎自体では、真皮の委縮は起こらない)。アトピー性皮膚炎が良くなれば、ステロイドも減量・中止するのですが、ステロイド外用が長期にわたると、そのあとの回復過程で、繊維芽細胞のコラーゲン産生が追いつかない、あるいは、分布にばらつきが生じるのだと考えられます。
 PRPの作用により、全体的に均質にコラーゲンの産生が促されたことによって、両者とも改善しています。

 PRPというのはなかなかユニークな施術で、学問的にも興味深いです。いろいろ病気の治療にも使えそうですね。
(2012年10月24日記)

CO2レーザーにおける炭化層の役割



先回(→こちら)の続きです。

先回「桐の箪笥は火事になって焦げても中の着物は燃えない」ことを例にあげて、CO2レーザーで炭化層が生じると、そこから先の組織を熱損傷から守る働きがあるだろう、といったことを記しました。

桐の箪笥の例えだけでは、納得いかない方もいるかもしれないので、もう少し科学的に推論してみます。

まず「炭化」とは何か。

有機物の温度を上昇させると、蛋白質の凝固・変性から始まって、化学的な変化が起こります。

窒素・硫黄・酸素などが、炭素原子と離れて、小さな分子となります。これらは気体(ガス)です。残った炭素の塊が「炭化」です。
炭化と燃焼は異なります。燃焼は、空気中の酸素分子と反応して、熱や光の強いエネルギーを放出するものですが、炭化とは、有機物から、窒素・硫黄・酸素原子を含む小分子が、離れていってしまう過程を言います。

炭焼き釜で、木を蒸し焼きにして炭を作る過程を思い浮かべて下さい。有機物(木)は、直接、炭にしようとしても出来ません。いったん強いエネルギーを外部から加えてやる必要があります(炭焼き釜に火をくべる)。それによって、木から炭素以外の元素が分子間結合が切れて離れてガス状になって出て行きます。後には炭が残ります。

CO2レーザーで、組織を蒸散させるときに、炭化層が出来ますが、この部でも同じことが起きています。組織がいったんエネルギーを吸収して、そのあと、そこから窒素・硫黄・酸素などを含んだ小分子が気体(ガス)状になって、外部に放出されます。レーザーのエネルギーは、このときに、これら小分子の運動エネルギー(熱)として放出されます。

ですから、炭化層が生じているということは、そこよりも深部の組織を、熱変性から守っていると言えます。

これでも納得いかないという方のために、数式による解説を試みます。先回の続き、CO2レーザーとエルビウムヤグレーザーの比較の話です。
エルビウムはCO2よりも「水への吸収が10倍」すなわち「吸光係数が10倍」のようです。

吸光係数というのは、

ランベルト・ベールの法則


におけるαのことで、つまり、吸光係数が10倍だと、同じ量の光エネルギーが組織に吸収されるまでに光が進む距離は10分の1になる、ということです。指数関数的に減衰していく、ということですね。

どんなイメージなのか、エクセルでグラフを作ってみました。

横軸xが距離、縦軸yが光エネルギーで、青線は赤線に比べて吸光係数が10倍とした場合の、減衰曲線です。なるほど、これだと、CO2レーザーはエルビウムに比べて、エネルギーの減衰が悪く、どんどん深くまで達して、熱損傷起こしてしまいそうですね。

そんなことはない、なぜかというとCO2レーザーでは、水以外の組織すなわち有機物に、光エネルギーが吸収されているからです(だから炭化が起きる)。

蒸散というのは、組織中の液体(水)あるいは固体(有機物)に強いエネルギーを与えて気化させ、このときの体積の急膨張によって、組織を爆発的に粉々にしてしまうメカニズムであるわけですが、エルビウムは、水への吸光係数が高く(水選択性が高い)、CO2は水への吸光係数が小さいです。しかし、CO2は水以外の有機物にも吸収されて、水蒸気以外のガスをも放出して爆発します。

エルビウムは水蒸気爆発、CO2は水蒸気に加えて有機物が混ざった化学工場爆発、と例えるといいかもです。

CO2の水以外の有機物への吸光エネルギーを考慮すると、上のグラフがどうなるか?考えてみました。

仮に、CO2レーザーの水以外の有機物への吸光係数、というか、ランベルト・ベールの式のαに当たる数値を、エルビウムの水の吸光係数の10倍とします。
皮膚の70%くらいが水分であるとすると、減衰曲線は、y=0.7exp(-0.1x)+0.3exp(-10x)となります。すなわち下図です。

ここから、xが小さい=非常に浅い部分においては、エルビウムのほうがCO2よりも減衰が小さいことがわかります。

さて、深い部分を見ると、CO2レーザーは減衰が悪く、熱損傷が大きいようにみえます。しかし、ここで登場するのが「炭化層」というバリアです。

炭化層は、当然、水分は0%です。ということは、ここでは水に関する減衰曲線は遮断されますから、y=exp(-10x)の急激な減衰曲線となります。

仮に深さ1のところで、炭化層が出来たとすると、下図のようになります。

炭化層を抜けたあとは、そのときの値を初値(y1)として、y=y1*{0.7exp(-0.1x)+0.3exp(-10x)}で減衰が始まる理屈ですが、y1は非常に小さいはずです。炭化層における減衰が急峻だからです。
エルビウムでは炭化層ができませんから、熱損傷はそのままです。

ですから、
炭化層ができるメカニズムによって、CO2レーザーは深部熱損傷から強く守られている
と言えます。

これは、CO2レーザーを使っていての実感とも合います。

CO2レーザーのテクニックは、いくつかありますが、基本は「フォーカス」と「デフォーカス」です。フォーカスは、焦点に合わせて小さなスポットに大きなエネルギーを加えるやりかたで、デフォーカスは、わざと焦点から遠ざけて、あぶるように軽く、より広範囲に焼く感じです。デフォーカスのほうが、炭化層は多くなりますが、熱損傷は少ない印象です。単に、デフォーカスにすると、エネルギー密度が小さくなるためと考えていましたが、炭化層を多く作るモードのために、水分を介した熱損傷が小さい、ためなのかもしれません。

※上記モデルにおいて、実際には、y=0.7exp(-x)+0.3exp(-10x)の、0.7と0.3すなわち皮膚の含水率は、CO2レーザーの照射によって変化するはずです。水の気化のほうが、組織の蒸散よりも早いからです。水の気化に伴い、0.7のほうの係数は小さくなり、0.3のほうの係数が上昇し、急峻な低下を示すexp(-10x)の寄与のほうが大きくなります。水が気化したあとの組織は、炭化していなくても、深部の熱損傷を防ぐバリアとなるということです。
時系列でいうと、水分の気化→組織の蒸散→炭化層の蒸散の順で、One shotのうちに、これが浅いところから深いまで繰り返されて掘り進んでいく、というイメージです。炭化層はOne shotの最後だけに出来るのではなく、掘り進む過程で常に形成されていて、最後に辺縁部のものが残されます。
しかし、この時系列による係数の変化まで考慮した数式は、私の手に余るし、この問題を考えるにあたって、そこまでの厳密性は必要ないでしょう。

以上が私の考えですが、果たしてどこまで当たっているのか、はたまた、どこかで間違いあるいは詰めの甘さがあるのか、それはわかりません。所詮、一開業医だし(^^;。
もしどなたか、気が付いたことありましたら、FAX052-264-0213までご指摘ください。よろしくですm(_ _)m。

なお、今回の記事というか、発想は、千歳台きたのクリニックの院長先生のブログ「皮膚の歳時記」(→こちら)中の記事を読んだことがきっかけになっています。
北野先生は、高野豆腐にエルビウムとCO2レーザーとを当てて、エルビウムでは炭化層が出来ないが、CO2では炭化層が出来ることを確認して、「炭化層のできるCO2よりも、水への吸光係数の高いエルビウムのほうが、熱損傷が少ない」と、考えておられますが、私は上記のような理由で、そ炭化層が出来るから熱損傷が大きいとは言えないのではないか?と考えた次第です。

まあ、しかし、現実問題として、CO2でもエルビウムでも、結局は術者次第でしょう(^^)。CO2は術者の腕にかなり左右されます。エルビウムは、初心者でも、炭化層が出来ない分、下床の確認がしやすいというメリットはあります。
汗管腫をCO2レーザーで焼くときは、小さく深いところの炭化層を上手に拭き取れるような極細の綿棒をこしらえておけばいいだけの話です。局所麻酔打つ前に、ピオクタニンでしっかり汗管腫の位置をマーキングしておく必要があります。この作業をあらかじめ丁寧にやっておかないと、局麻で膨らんだあと、汗管腫がどこにあったのか判らなくなって、あせることになるし、取り残しの原因にもなります。

私は、今のところ、北野先生の見解とは違う結論に達していますが、「皮膚の歳時記」の記事は興味深く、また面白かった。とことん自分で考えて、実験もしてみるという姿勢にとても好感を持ちました。

追記)
水とハイドロキシアパタイトとの、エルビウムとCO2の吸光係数の載っているグラフ見つけました。

上で、「CO2レーザーの水以外の有機物への吸光係数はエルビウムヤグレーザーの水への吸光係数の10倍」と仮定しましたが、CO2レーザーのハイドロキシアパタイトへの吸光係数はエルビウムヤグレーザーの水への吸光係数の数倍はありそうです。ですから、上記仮定は的外れではないと思います。
また、このグラフを見ると、ハイドロキシアパタイトに対するCO2の吸光係数は、エルビウムの100倍以上です。ハイドロキシアパタイトを「水以外の有機物」に置き換えても、似た数字になるでしょう。
「エルビウムはCO2に比べて水の吸光係数が10倍だから熱損傷起こしにくい」とう仮説が成り立つなら、「CO2はエルビウムに比べてハイドロキシアパタイト(≒水以外の有機物)の吸光係数が100倍なので、もっと熱損傷起こしにくい」という仮説も成り立ちます。
そしてこの二つは矛盾します。ということは、この仮説はおかしい、間違っているということです。
純粋に論理学の問題ととらえるなら、「エルビウムはCO2に比べて生体を構成する全ての物質に対して吸光係数が大きい」なら、「エルビウムはCO2よりも熱損傷起こしにくい」と言えます。しかし、実際にはそうじゃないってことです。

※この記事には続きがあります→こちら
(2012年10月13日記)

CO2レーザーとエルビウムヤグレーザー


そういえば、昔、レーザーリサーフェシングが盛んだった頃に、この2機種を比較した論文が多く出ていたけど、どうだったのかな?と思いついて、検索してみました。

Pubmedですぐにいくつかヒットしたので、Pay per viewで一論文$30くらいでダウンロードします。今は図書館に行かなくても、お金さえ払えば、いくらでも医学論文が読めます。本当に便利です。

私は、医学論文を読むのが好きです。診療の合間は、たいていPubmedで、思いついたkey wordで検索して、興味のある論文見つけてはダウンロードして読んでいます。ここ数年は、毎月ダウンロード代10万円くらい遣ってます。まあ、他にお金かかる趣味ないから(^^;。

それでこういうデータ見つけました(表をクリックすると拡大します)。
(Comparison of carbon dioxide laser, erbium:YAG laser, dermabrasion, and dermatome: a study of thermal damage, wound contraction, and wound healing in a live pig model: implications for skin resurfacing. J Am Acad Dermatol. 2000 Jan;42(1 Pt 1):92-105.)

これ見ると、CO2レーザー1pass(1回照射)は、だいたいエルビウムレーザー5回に相当します(角層からの深さがそれぞれ70μmと80μmでほぼ同じになる)。それぞれに対応する、術後2日における真皮のダメージの深さは、120~150と180。あれっ?エルビウムの方がダメージ深じゃん。

もっとも、エルビウムを10pass行った場合と、CO2を3pass行った場合とを比べると、前者は深さ170で真皮ダメージ240、後者は深さ85~100で真皮ダメージ200~300で、CO2のほうが、ダメージ深いです。しかし、CO2とエルビウム、熱損傷はほぼ同じのようですね。

デルマトーム(大きなメスのような刃物)で削った場合には、角層からの深さ150に対して真皮ダメージ140だから、やはりメカニカルな操作は、レーザーよりも真皮ダメージ少ないです。

もしも、レーザーによる熱変性を問題視するなら、メカニカルアブレージョンでほくろ取ればいいんですよね。エルビウムは、炭化させないから、真皮からの出血も止まらないし、デルマトームやトレパンのような刃物で機械的に取るのと変わりません。

ガラス細工に使うルーターという道具があるんですが、これを使ってメカニカルアブレーションして取ることも出来ます。

実際、昔、わたし、国立病院勤務医の頃、これでほくろ取ってました。医療用のアブレージョン器具があったんですが、細かい仕事がやりにくい。それで東急ハンズで、これ買ってきて、滅菌して用いてました。麻酔無くても、さほど痛みを感じず、小さなほくろなら取れてしまいます。病院がCO2レーザーを買ってくれない貧乏勤務医としては重宝しました。

熱変性を重視して、CO2レーザーよりもエルビウムヤグレーザーの方が良いと主張する医師がいますが、なぜメカニカルアブレージョンに辿り着かないのか不思議です。

もう一つ、私の懐疑は、「CO2レーザーは炭化層が出来る=熱変性が大きい」というセオリーです。本当か?

高周波で皮膚焼くとき、周辺への熱変性は広いけど、炭化層作ってないでしょう?だから、炭化があるから組織ダメージが強いとは言えないと考えます。

桐の木は燃えるが桐タンスは燃えない」というサイトご覧ください(→こちら)。
一部引用します。

なぜ「桐箪笥は火に強い、燃えない」といわれるのでしょうか?
1つには、キリ材の細胞組織は他の樹種と大きく違って柔組織が多い。
また乾燥による収縮・変形が小さいために、燃焼によって割れや隙間ができない。
2つには、表面が燃えて炭化層ができること、これが高性能の断熱材とし働き、熱を内部に伝えにくくする。
この2つの理由によって、火災でタンスの中まで燃え尽きるには時間がかかると推測することができます。
小さいキリ箱を燃やす実験では箱の中の温度が100℃になるまでには8分ほどかかります。ですから、早く消火を行えばタンスの中の着物は被害をうけないといえるかもしれません。

(火事で焼けた桐たんす。中は焼けていません。)

ですから、私は、CO2レーザーで表面に薄い炭化層が出来ると、
1) 止血効果がある

ことに加えて、
2) 断熱効果がある

という、二つのメリットがあると思います。

独創性すなわちオリジナリティーというのは、要するに、自分の頭で考えるかどうか?ということだと思います。

オリジナリティーの強い先生、自分でデータを取ったり文献を調べたりして考えるタイプの先生(お医者さん)は好きです。たとえ自分と意見が違っていても尊敬します。できれば、議論して、いっしょに真実を突き止めたくなります。

私が軽蔑するのは、自分自身にオリジナリティーが無くて、そのくせ、「〇△先生がこう言っている」と、やたら他人の権威を振りかざす、「虎の威を借りるキツネ」的な医者です。そういう医者がネットで「虎の威を借りるキツネ」的な情報発信しているのに接すると、吐き気がします。 (→こちらに続く)
(2012年10月11日記)