多血小板血漿6:PRP作成法by鶴舞公園クリニック

多血小板血漿5は→こちら
多血小板血漿7は→こちら

 成分採血で大量に採る方法はひとまず置いておいて、少量(10~20ml)の血液からPRP液を採取するもっとも合理的な方法を考えようと頭をひねっています。

 まず採血します。シリンジに抗凝固剤を加えておきます。(注:ここではヘパリンを使っていますが、調整された最終PRP中のPDGFを測定したところ、ACD-Aのほうが高かったので、現在はACD-Aを使っています)

 このあと、シリンジのまま遠心にかけるわけですが、シリンジが押されて遠心機内に血液が飛び散ることのないように、念のために、下の写真のような工夫と注意をすることにしました。


(1)シリンジにキャップを付ける。
 「トップ保護栓ロックタイプ」という製品が便利です。動画(→こちら)のように、しっかりと栓をしてくれます。
          
(2)シリンジに空気が残っていないか注意
 シリンジに空気が残っていると、シリンジ内筒が動き出すきっかけにななり得ます(液体と違って空気は圧縮されやすい)。なるべく抜いておいたほうが良さそうです。

 奥羽大学の福田先生のデータに従い、176×gで5分間遠心します(計算は→こちら)。



遠心終わるとこんな感じです。

 取り出して、血漿を採取します。シリンジ立ては、東急ハンズで材料を吟味・加工して、さらに進化しました(^^)。
               (画像または→こちらをクリック)

 さて、この時点で採取された血漿中の血小板密度を確認してみましょう。

 最近は便利なもので、ディスポの血球計算盤も少量ロットの通販があります。2日で届きます。

 これに血漿を一滴たらして、顕微鏡で個数を確認します。

 計算版には1mm×1mmの区画が引いてあって、深さは0.1mmですから、1mm区画の容積は0.1μLです。予想される血小板濃度は、15~50万/μL×2=30~100万/μLくらいですから、1mm区画には3~10万個の血小板がいるはずです。

 実際覗いてみると、こんな感じです。

まず、ときどき居る白血球を確認します。半径がその数分の一くらいの小さな粒子が血小板です。たくさんいます。これ全部血小板です。

 ちなみにこの写真、こうやって撮りました。
理屈的には、焦点距離が数十cmなら、撮れるはずだと思ってやってみたんですが・・ちゃんと撮れるものだなあ。オートフォーカスもちゃんと機能するし。最近のデジカメって偉い(^^;。
 話を戻します。計算盤でカウントするには多すぎるので、希釈してやります。
血漿30G針一滴は20μLくらいのようです。なぜなら、0.1ml(100μL)が5滴にあたるので。

 これを20mlの生理食塩水に加えると、1000倍希釈になります。すると、密度は、300~1000万/μLとなり、計算盤の1mm区画には、30~100個現れるはずです。

 顕微鏡で覗くと、こんな感じでした。

矢印の先に見える小さな粒が血小板です。これを1mm区画分、数えていきます。

 今回スタッフ2人の血液で実験しました、1人は52個、もう1人は42個。

 ということは、採取した血漿中の血小板濃度は52万/μLと42万/μLになります。もともとの全血の血小板濃度はだいたいその半分の26万/μLと21万/μLくらいだったのでしょう。

 さて、52万/μLや42万/μLという濃度であれば、そのままPRP療法に使っても、たぶん有効です。なるべく広い面積にチクチク注射して、全体的に張りを出したい、という目的なら、一回の低速遠心後の血漿を使うとよいでしょう。

 一方、量として7~8mL採れますから、例えば、眼の下のあたりに1mLあれば十分、ということであれば、濃縮したほうが良いです。

 濃縮するためには、血小板をいったん沈殿させます遠心後の下方の血漿部分を採っても、血小板は薄いです(→こちらの計算)。濃縮するには、いったん沈殿させるしかありません。

 ここで、注意を促したいことは、全血からの血小板総収量を考えたとき、いちばん収率が良いのは、1回の低速遠心の血漿をそのまま使うことです。なぜなら、2回目の遠心をとんなに強くかけても、血漿中の血小板を全部沈殿させることは、現実的に無理だろうからです。

 わたしが、今回の実験のために用意した遠心分離機は、3000回転まで出せますが、ロータ半径はシリンジ内筒の長さを差し引くと、4.1cmです。計算すると412×gまでしか出せません。

 このgで15分遠心して血小板を沈殿させて、血漿を顕微鏡で確認すると、
こんな感じで、血小板、残ってはいますが大分薄くなりました。

 なおかつ、残っている血小板は、心なしか、弱々しそうです(・・気のせいかも、眉唾つけてください(^^;)。たぶん、血小板にも顆粒などの密度の大小があって、比重のちいさな血小板が最後まで浮遊して残るのでしょう。

 血小板を濃縮するには、2回目の遠心後の上澄み(血小板を沈殿させたあとの血漿)を少し吸い取ったあと、沈殿と再混和してやればいいです。動画で示します。
画像または→こちらをクリック)

 動画の最後で、試験管ミキサーで沈殿を再混和してます。これしないと、PRPになりません。
 上澄みを取る量について。
 (1)最終的に何mL必要か?から考えてもいいし、(2)血小板密度を考えて計算してもいいです。今回は、一回目の遠心後の血小板密度は、52万/μL(もう1人は42万/μL)でした。最終的に2mL用いることにして、7mLを2mLに濃縮しました。

 出来上がったPRP液がこちら。

 上の太いシリンジは、上澄み(血小板を沈殿させたあとの血漿)です。下の3本のPRP液と比べると、透明なのが解るでしょうか?(写真をクリックして拡大するとわかりやすいです)
 下の3本の「濁り」が血小板です。

 だから、1回目の遠心分離をしたあとで血漿の濁り具合で、血小板の濃い薄いは、ある程度見当がつきそうです。

 これは、決していい加減な話ではなくて、血小板機能検査では、活性化物質を加えたときの、まさにこの「濁り」の変化でもって、血小板機能を判定します(比濁法)。だから、濁り≒血小板濃度という考えは、おかしくはないです。

 もっとも、血中脂質が多い場合にも血漿の濁りは増します。しかし、透明な血漿の血小板数が高いことはありえません

 多血小板血漿治療の治療を受ける際には、最終的なPRP液を見せてもらって、「濁り」を自分の目で確認するといいです。上の写真ダウンロードして携帯に入れて、比較するといいでしょう。

 他のクリニックのブログなどで、「多血小板治療の施術時の写真です」とUPされたシリンジ内の血漿が、どう見ても透明で、ほとんど血小板無いんじゃないか?(高速遠心して沈殿を試験管ミキサーで再浮遊せずに上清を採ると、上層だろうが下層だろうがそうなります)と思われることがあります。たぶん、そういう先生は、自分で顕微鏡で血小板を確認したことも無いんじゃないかな。恥を晒していることに自分自身気がついていないですね。また、そういう無知な先生が、効果が薄いからと成長因子入れて、回復不能な繊維性のしこりつくっちゃったりするんですよ。
 
 さて、最終的なPRP液の血小板密度ですが、計算盤でカウントしたところ、42万/μL→110万/μLでした。

 7mLを2mLを濃縮したはずなので、3.5倍になってもよさそうなものですが、実際には、上澄みに残る血小板や、沈殿したまま再浮遊しない血小板やらのため、2倍程度にまでしか上がらないということなんでしょう。

 しかし、100万/μLを越えれば、日赤の血小板濃厚液と同レベルですから、まずまずです。

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今回わたしが使用した遠心分離機は、DSC-200T
http://www.kenis.co.jp/onlineshop/2009/05/1136565.html
35,910円
試験管ミキサー
http://www.tech-jam.com/science-equipment/test-tube-mixer/KN3323200.phtml
24,937円
ディスポ細胞計算盤(10枚セット)
http://www.kenis.co.jp/onlineshop/2009/05/1318905.html
2,730円
延長チューブはサフィード延長チューブ25cm2.0mL(ET2022L)

です。顕微鏡は、皮膚科の先生なら誰でも持ってるだろうから、ここをご覧の皮膚科の女医さん、PRP療法っていうのは、ヒアルロン酸注射と違って、さほどの技術は要らないから、来週からでも、自由診療の一環として始められますよ、高いキット買わなくても(^^;。

 成長因子添加するなんて馬鹿なことさえしなければ、安全性は保障されてるし。

 一回の効果は小さいけど、毎月くりかえしていけばいいと思われます。女性の生理の出血量は、50~100ml(平均82.5ml)だそうです。月1回、20ml採血しても健康影響はさほど無いでしょう。毎月PRP採って、気になるところに打っていれば、塵もつもれば山となること請け合いです。(^^)。論文にもなってるし(→こちら

 上に記した、私の方法の最大のメリットは、シリンジや延長チューブ、三方活栓といった、完全に医療材料だけを介してPRPが作成できるという点です(安価で衛生的)。
 
 シリンジ台は・・よかったら、私、東急ハンズで材料買ってきて、作って送ってあげますよ。私の手間賃こみで、1万円でどうでしょうか?クリニックまでFAXください(052-264-0213)。

 そのかわり、先生のHPとかに、「当院のPRP療法は、鶴舞公園クリニックの深谷先生考案の方法です」って書いて、この記事またはブログへのリンク張ってね。それと、自分では出来ないプチ整形の患者さん、うちに御紹介くださいな。責任もって、ちゃんと満足させておかえしします。決して先生に恥はかかせません(^^)。

 PRP療法、わたし、自分のクリニックでも一応メニューに加えようとは思うけど、私(施術者)にとってはあまり魅力ないし(注入技術が難しくないし、結果が数ヶ月かかって、かつ不確実系なので)、こうしてやり方公開して、日頃患者さん送ってくださる、あるいは、これから送ってくださるであろう、美容系の女医さんたちの受け狙ったほうがいいかな?なんて考えたりして。

 まあ、そんなところかなあ、結論としては。ああ、面白かった。こういうことを考えたり工夫したりするのは、それ自体がわたしは好なんです。男の子だから(^^)。
(2012年2月24日記)

多血小板血漿5:PRP療法の「PRP」は本当に「多血小板血漿」か?


多血小板血漿4は→こちら
多血小板血漿6は→こちら
 
 PRP療法のPRPは、platelet rich plasmaの略です。日本語に訳すと「多血小板血漿」または「血小板濃厚血漿」です。
 一般には、下図のように考えられています。
 血液を遠心分離すると、最下層に赤血球が沈殿し、その上に分離フィルター、さらにその上に黄色の上澄みが溜まります。この上澄み(血漿)の上のほうには血小板が少なく、下のほうには血小板が多い(濃縮されている)と解説されていることが多いです。

 しかし・・・
 遠心分離して、血漿(黄色い部分)を上層と下層の二段階に分けて、下層で血小板がどのくらい濃縮されているか、顕微鏡で何度確認しても、血漿の下層で血小板が濃縮されているとは判定しがたいのです・・。

 バッファーコート(上図には示されていませんが、フィルターの直上にある血小板や白血球の沈殿層のこと)には、血小板は沈殿しています。

 遠心分離の条件はいろいろ変えてみました。回転数(すなわち×g)および時間を増やすと、血漿中の血小板密度は、上層(PPP)も下層(PRP)も、減っていきます。沈殿する血小板は増えるけど。

 奥羽大学の福田先生のデータ(→こちら)に似ています。遠心すればするほど、血漿中の血小板収量は少なくなります。「濃縮」はされません。

 果たして、上図のイメージは正しいのか?上図でいうところの「PRP」は、本当に存在するのか?・・

 落ち着いてよーく考えてみました。
 そして、下図のような考えに至りました。
まず、わかりやすく、赤血球が全部沈降した状態から考えます。赤血球の沈降速度は血小板の200倍くらいなので、まず赤血球が全部沈殿し、その時点では血小板はまだほとんど均一に血漿中に分布すると考えていいはずです。

 全ての血小板は同じ速度で沈降する、と仮定します。これは、遠心分離機にかけず、静置した場合にあてはまる条件です。

 血小板は、A→B→C→Dのように沈降していきます。Dにおいて、「PRP」と呼ばれている血漿下方の血小板密度は、Aに比べて大きいでしょうか?

 同じはずです。「濃縮」されてはいません。沈殿部分をいっしょに採れば、濃くなるでしょうが。


 次に、遠心分離の場合を考えます。遠心分離の場合、粒子の沈降速度は、回転半径(R)に比例して大きくなることが知られています(ストークスの式)。
この条件においては、上図のようになります。
 Cの血漿の下半分の血小板密度は、上半分と同じ(または、最上層からまったく血小板が無くなる分を考慮すると、下半分のほうが若干濃い)となり、かつ、最初のAの血小板密度よりも薄くなっていきます・・・。

 一応、数学的に、解説証明してみます。
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遠心半径xの位置にある血小板の沈降速度v=dx/dt=ax
変形して、dx/ax=dt
積分して1/a・lnx=t+C
t=0のときx=x0とすると、C=1/a・lnx0
これを代入して、1/a・lnx=t+1/a・lnx0
x=e^a(t+1/a・lnx0)
(これが、t=0のときx=x0にある血小板のt時間後の沈降位置を示す式)
一方、t=0のときx=x0-1にある血小板は、
同じく1/a・lnx=t+Cに代入して
1/a・lnx=t+1/a・ln(x0-1)
x=e^a(t+1/a・ln(x0-1))
両者の差は、
e^a(t+1/a・lnx0)―e^a(t+1/a・ln(x0-1))
=e^at(e^ln(x0)―e^ln(x0-1))
=e^at
t>0のとき、e^at>1(指数関数なので)
よって、t=0のときに1離れていた血小板は、t>0ではさらに離れていく。

また、t=0のときx=x0+1、x0、x0-1にある3つの血小板を考えたとき、t1時におけるそれらの間隔は、
e^a(t1+1/a・ln(x0+1))―e^a(t1+1/a・lnx0)
=e^at1(e^ln(x0+1)―e^lnx0)
=e^at1
e^a(t1+1/a・lnx0)―e^a(t1+1/a・ln(x0-1))
=e^at1(e^lnx0―e^ln(x0-1))
=e^at1
となり、両者は等しい

グラフにするとこんな感じです。
~~~~~~~~~~~~~~~
 ・・大学教養部レベルの問題かなあ?こういうこと考えるの好きなので、たまーに、おかしなところで、頭をひねくるんですが、もともと出身大学は名市大だし、もう52才だし、ひょっとしたら、間違ってるかもしれません・・。間違いご指摘歓迎します。FAX052-264-0213までよろしくお願いしますm(_ _)m。

 まあ、イメージとしては、遠心された血小板、沈降すればするほど、さらに強い遠心力が働いて、最後はブラックホールに吸い込まれるように沈殿していく、ブラックホールに吸い込まれる直前の血小板が、「濃縮」なんてゆとりな状態には、ありえないって感じです。
 
 実際、顕微鏡でみても、遠心すればするほど、「PRP」と呼ばれている血漿下方部分の血小板密度は、濃縮ではなく、薄くなるようです(沈殿は増えますが)。

 日赤の血小板濃厚液は、どうやって作っているかというと、遠心分離ではあるのですが、バッファーコートの白血球層のほんとに直上、すなわちほとんど「沈殿」部分を採っているようです。
 参考までに動画です。
          (画像または→こちらをクリック)
 
 遠心され、血漿(黄色)、白血球層(=バッファーコートともいう、白色)、赤血球層(赤色)とに分離された血液が、ゆっくりと押し上げられていきます。
 血漿を排出したところで、バルブが切り替わり、白血球層直上の薄い層(血小板のみの沈殿層)を採取します。

 以上から考えると、正しいPRP液の調整の仕方は3つ考えられます・

1)成分採血機で沈殿直上の濃厚血小板層から採取する。

 先日記した通りの方法(→こちら)で、確実に濃厚血小板血漿が採れますが、やや大掛かりです。

2)少量採血したのち、静置または低速遠心で、赤血球のみを沈降させ、血小板はなるべく沈殿させないようにして、血漿を採って使う。

 血小板濃度が全血中30万/μlのひとがいたとします(健常者正常値は15~50万/μlです)。弱い遠心分離(または3時間くらいの静置)によって、赤血球のみが沈殿して血小板が沈殿せず、全血が、6mlの赤血球層と4mlの血漿に分かれたとすると、血小板は結果的に30万個/μlが10/4(=2.5)倍に濃縮されたわけですから、75万個/μlになります。これを用いても、それなりにPRP療法としての効果はありそうです。

3)2)の方法で採った血漿を、もう一度、こんどは高速遠心をかけて、血小板を沈殿させ、上澄みを少量残してあとは捨てた状態で、試験管ミキサーにかけて沈殿を再び浮遊させる。

3)の方法が、いちばん妥当かなあ?・・

ということで、試験管ミキサーを注文しました(^^)。3)の方法を試して顕微鏡で収量を確認してみます。たぶん数日で結果わかるので、また追記しますね。
(2012年2月20日記)

多血小板血漿4:少量PRP液のもっとも合理的な作成法(簡易だけれど、たぶんこれが大正解)


多血小板血漿3は→こちら
多血小板血漿5は→こちら
 
 PRP液の作成法についての続きです。退屈に思われる方も多いでしょうが、私も男の子なんで、こういう工作とか工夫みたいなこと好きなんです。お付き合いください。
 今日は、またまたふと閃いたのですが、

「シリンジ(注射器)で採血して、それを試験管に移さず、シリンジごと遠心分離は出来ないだろうか?」

 もし、これが可能なら、ずいぶんと手間が省けるような気がします。
 そこで実験してみました。

 まず、プラスチック製の注射器の「耳」を切り取ります。このままだと、遠心分離機のバケットに入らないからです。

 普通の工作はさみで切れます。出来上がりこんな感じ。

 これに、抗凝固剤を加えて採血し、遠心機に入れます。

 どうなると、思います?シリンジの内筒が押されて遠心機が血だらけになるでしょうか?

 実は、事前に、水で実験してあるので、大丈夫ということは判っているのですが、内筒(の黒いゴム部分)と、外筒との摩擦抵抗は結構大きいようで、先に紹介した福田先生の論文(→こちら)の条件(=遠心力178×g)だと、内筒は、ずれません。

なので、遠心終了後はこんな感じです。うまく分離されてます。


 これを取り出して並べます。試験管立てが無いので、テープで下を止めて倒れないようにしてあります。

 これに、短い(10cm)の延長チューブと針をつけて、シリンジの外筒を押し下げると、血漿が採れます。

 神経を使うピペット操作が要りません。シリンジ外筒を押し下げるだけで、ぎりぎりまできれいに採取できます。「そんなうますぎる話が」と疑う方はやってみてください。やってみれば嘘じゃないことが解ります。

 最後は、延長チューブをクランプして外した後、延長チューブを立ててやれば、全量シリンジに集まります。


 これをもう一度、遠心分離します(二回目)。出来たものが下の写真。
これの上方を、PPPとみなして延長チューブを用いて上と同様に採取して捨てます。

 残った下層をPRPとして、治療に使います。下写真は、1mlシリンジで吸っているところ。
これで、20ml(5ml×4本)の全血から、3mlのPRPが出来ました。

 以上です。この方法の最大のメリット(自画自賛で恐縮です)は、シリンジと延長チューブと針しか使っていないので、血液は、医療用の材料だけを経由してPRPへと分離濃縮されているというところです。材料に関して、非常に衛生的で安心です(安価でもある)。

 ここ見ていらっしゃる女医さんや看護婦さんで、器用な人なら、明日にでもPRP液作って自分で自分に打てるんじゃないかなあ。

 遠心機も、福田先生の論文データ(1000rpm@ロータ半径16cm=178×g)なら、高価なものは要りません。
 注意事項が一点。ロータ半径によって遠心加速度は変化します。私が今回使ったのは、ロータ半径9.5cmのものですが、シリンジの内筒部分のロスを考えると、下図のように有効半径は4.1cmとなります。すると、178×gは1970rpmに相当します(http://www.hitachi-koki.co.jp/himac/support/riron.html参照)。手持ちの遠心機のロータ半径・傾斜角度・シリンジ内筒長さに応じて回転数を計算しなおす必要があります。
これ、実は、見学にいらっしゃっていた女医さんと、お昼ご飯食べてPRPの話しながら思いついて、速攻でクリニックに帰って、その女医さんの血液とってやらせてもらったんですが(だから私服のまま)、その女医さんから夕方届いたメールがこちら。
~~~~~~~~~~
もう全然痛くない♪
ほとんどあとも気にならない♪
面白かったしとても感心しました。ありがとうございました(^^)/
~~~~~~~~~~

(追記)
 延長チューブに三方活栓付けると、PPPやPRP吸引時に完全にクローズドになって、さらに扱いやすいです。シリンジ押し下げながら、もう片方吸引しないといけないので、ちょっと慣れが必要ですが。

 一回目の遠心と二回目の遠心の間は、延長チューブを三方活栓下写真のように刺しておくと、一回目のがそのまま使えます。

(追記2)
 お昼休みに東急ハンズでステンレス板買ってきて、シリンジ立て作ってみました。これは便利。
          (写真または→こちらをクリック)
(2012年2月17日記)

多血小板血漿3:①成分採血(アフェレーシス)によるPRP療法と②自作キットによるPRP療法


多血小板血漿2は→こちら
多血小板血漿4は→こちら
 
①成分採血(アフェレーシス)によるPRP療法

 日赤で行われている献血には、全血献血と、成分献血とがあります。成分献血というのは、血液の中の血漿や血小板など、特定の成分のみを献血する方法で、専用の機械を用いて、採取した血液中から成分のみを取り出して、あとは返します。

 この、血小板のみを取り出した「血小板濃厚液」というのは、PRPそのものです。
(日赤の血小板濃厚液)

 ということは、この機械を入手して、血小板の成分採血を行えば、いくらでも自己PRPを採取することが出来ます。赤血球などほかの成分を抜かないので、貧血にはなりません。また、血小板というのは、普段はほとんど働いていない(けがをしたり出血があったときにのみ止血の働きをする)ので、ある程度大量に採取しても、症状はありませんし、数日たてば元に戻りますから、この間、交通事故などおおきな怪我をしないように気をつけてさえいればいいです。だから、成分献血として、多めに街中で一般人から安全に採取されているわけです。

 それで、この機械を入手できないかと問い合わせてみたのですが、機械本体の購入は出来るものの、血小板成分採血のプログラムやキットは、日赤独自のもので、一般の病院やクリニックには卸されていないことが判りました。なるほど、それでやられていないのか。

 いったんは諦めかけたのですが、ふと閃いて、ある方法(工夫)で日赤の血小板濃厚液とまったく同じものを成分採血することが出来ました。「ある方法(工夫)」というのは、もったいぶった言い方ですが、まあ、ご想像ください(^^;。
機械は、日赤の成分採血で使われているものと同じものです。これを幸いお借りすることが出来たので、うちのクリニックでスタッフのPRPを採取してみました。

 これが採れたPRP液。だいたい全血換算600ml分くらい、約30mlです。所要時間30分ほど。日赤の「血小板濃厚液」レベルですから濃いです。濃度は100万個/μl以上。市販のPRPキット1回分で採れるのはこれよりも薄いものが、1~2本分ですから、20~30キット分くらい一度に採れます。

 採ろうと思えば、もっと採れますが、試験的にやってることなので、そんなに採らなくてもいいし(^^)。

 成分献血では、たぶん全血1L分くらい採取すると思います。人の血液は体重の7%ですから、体重50kgの人で3.5L。全血1Lは30%に当たります。ということは、概算で、1Lの血小板成分採血すると、体内の血小板数は一時的に7割くらいに落ちますが、それ自体で症状が出るということはありません。献血の帰りに交通事故にあったら、出血量がやや増えるだろう、という程度のリスクです。数日でもとにもどります。
 採れたPRP液を、スタッフの志願者本人(といっても皆志願しますが)に注射します。だいたい首全体で20ml(20本)、片手10ml(10本)くらいです。注射に要する時間は、1本につき1~2分。
 結構手間暇かかりました。

 長期経過はまだですが、下の写真は、片手に打った短期のbefore/afterです。
施術側は、筋や血管の間がふっくらしました。札幌医大の佐藤先生のbFGF療法(→こちら)によく似た効果だと思います。まだ注射後数日ですが、初期の腫れは退いているので、これがどのくらい続くか?2ヵ月後くらいからどの程度「張り」が出るか?を経過観察中です。

 もっともPRP療法に効果はそれなりにあることはわかっているので、これだけ大量に注射した場合にどのくらい効果が増強するか?の検証ですが。

 効果を確認したあとは、手間暇と費用対効果を勘案して、うちのクリニックのメニューに加えるかどうか決めます。現在スタッフ2名に施術しました。来週もう1人、成分採血の条件を変えて施術します。「条件を変えて」といっても、確認的なことで、技術的にはほぼ完成です。

 ここをご覧の方で、「ぜひ受けてみたい」という方いらしゃったら、お電話ください。この「大量PRP療法」、どのくらい需要があるものか、わたしもちょっと解らないので。反響あれば、施術メニューに加える方向で前向きに検討します。お電話いただいた方には、施術することになったら、優先的にご連絡します。

 ・・いまのところ、うちのクリニック、あえて新しい施術をメニューに加えなくても、予約だいたい埋まってしまいます。だから、実のところ、そんなに積極的ではありません。ただ、ちょっと「成長因子加PRP療法」の問題を調べ始めて、ふと思いついて、持ち前の探究心にスイッチが入っちゃったんで、研究中という次第です。


②自作キットによるPRP療法

☆(通常の)PRP療法での、遠心分離機の回転数について

 PRP療法について調べている過程で、ちょっと興味深い文献を見つけました。

「多血小板血漿(PRP)精製過程における遠心分離についての検討」
浜田智弘ら、奥羽大学歯学誌 31(4), 243-247, 2004-12-30

 です。下記URLの「プレビュー」クリックすると、全文無料で閲覧できます。
 http://ci.nii.ac.jp/naid/110004686089
通常PRP療法の場合、遠心して上の写真のように分離します。赤血球分画とPRPの間にセパレートゲルが入っていますが、奥羽大学の論文はセパレートゲル無しで、各種回転数、遠心時間で、いちばんPRP回収率のよい条件を探ったものです。

 図表を引用して解説しますと、



 遠心回転数、時間ともに、あまり長すぎないほうがよい、1000rpm(注:ロータ半径16cmでの回転数です。=178×g相当)×5分くらいが一番収率が良い、という逆説的な結果です。

 直観的には、遠心回転数・時間とも、長ければ長いほど、収率いいような気がしませんか?

 なぜだろう?私なりに理由を考えてみました。

 血液中の赤血球や血小板は、液体の中に浮遊する粒子と考えられます。この粒子の沈降速度は、粒子径の2乗、(粒子の比重-液体の比重)、重力(遠心力)に比例します(ストークスの式)。

 赤血球の径は血小板の4倍、比重は血漿:1.027、血小板1.032、赤血球1.095ですから、ざっと計算してみると、赤血球というのは、だいたい血小板の200倍の速さで沈降します。

 下の写真は、採血した全血を、注射器を逆さにして3時間ほど静置したものです。
 地球の重力を利用して、1×gで遠心分離したってことですね。
赤血球の沈降速度は血小板の200倍ですから、上の黄色い部分中には血小板が浮遊していますが、ほとんど沈降していません。PPPとPRPに分離していない状態です。

図3は、1000rpmで5分遠心した後の、血小板の分布です。「軟層」というのはbuffer coatの部分で、PRPキットではこの直下がセパレートゲルで仕切られていますが、奥羽大学の実験ではセパレートゲルが無いので、遠心回転数を上げてgを増やすと、どんどん、赤血球層まで沈降していきます。

 ストークスの式で、重力(遠心力)を大きくしすぎると、血小板と赤血球の径・比重の差が意味がなくなって、沈降速度が近づいてしまう、ということだと思います。

 市販のPRP採取キットでは、セパレートゲルが存在して隔壁になっているのでしょうが、あまり回転数を上げすぎると、セパレートゲルに血小板が張り付いてしまって、その上の血漿部分の血小板絶対数が少なくなってしまうかもしれませんね。

 市販のキットの回転数は3000回転以上のようですが、どうでしょう?1000回転5分のほうが、実は、採取血小板絶対量多いなんてことないかなあ?


☆PRP注射時の痛みや腫れの問題

 今回、実際にPRP液を注射してみて、意外に痛み・腫れが強いんで驚きました。
 自己血漿ですから、痛みも腫れも、ほとんど無いと思ってたので。

 これも、わたしなりに考えました。抗凝固剤として用いられているACD-A液は、PHが5.5-6です。これを1:10くらいで混ぜているので、PRP液というのは、結構な酸性で、その痛みではないだろうか?

 もしそうなら、メイロン(重炭酸ナトリウムの注射液、アシドーシスの補正などに使う)で中和してやれば、痛みは緩和されるはずです。術後の腫れも少なくなるかもしれない。
上の写真の右は中和前のPRP液でPHは6.6くらいです。左は中和後でPH7.0くらいです。

 スタッフにブラインドで、両者を試したところ、100%の的中率で、中和後のPRP液のほうが痛くない、という答えでした。やっぱり。

 ところで、なんで、ACD-Aが抗凝固剤として用いられているのだろう?・・ヘパリンじゃいけないの?
 ヘパリンなら、PRP液は酸性に傾かないので、痛くないはずです。

 わたしの想像ですが、PRP液というのは、元々歯科で、塩化カルシウムを加えて活性化・ゲル化して、欠損に充填するという形で用いられていました。そのときに、ACD-Aのほうが、塩化カルシウムで活性化させやすいと考えたのではないかなあ。ACD-Aの抗凝固作用は、カルシウムイオンのキレート化だからです。ヘパリンの作用機序はアンチトロンビンⅢを介するもので、中和にはプロタミンを使います。価格も高いし、キットとして使うには扱いにくいです。
 美容で注射するときには、注射後、PRPは自己組織で活性化されるでしょう。それまではむしろゲル化してもらっては困ります(注射しにくい)。それならば、痛み・腫れ対策のために、抗凝固剤はヘパリンを使用したほうがよいと考えます。←注:その後、PRP中のPDGFを測定してみた結果、ヘパリンよりもACD-Aのほうが、高値なことが判ったので、現在はACD-A液を用い、最後に溶媒を血漿から生理食塩水に置き換えて痛み対策とするという方法に変更しました。

 今回、ヘパリンを抗凝固剤に用いてPRP液を作成し、スタッフに注射してみましたが、痛みは、中和されたACD-A液のPRPと同等、あるいはそれ以下、という結果でした。

<まとめ>
 PRP療法についての、現在のわたしの関心事は、(1)いちどにアフェレーシスで大量に採取して注射するのがいいのか、(2)少量採血して遠心して繰り返し注射するのがいいのか、です。たぶん向き不向きというか、全体的な張りを出すには(1)がいいし、法令線や小じわなど、局所的なボリューム効果を目的とするなら(2)なんだろう、とは想像できますが。
 仮に(2)を行うとしたら、やはり市販のキットで行うには、コスト考えると、見合わないです。
 「自作キット」って言っても、そんな大げさな話じゃなくて、奥羽大学の浜田先生の論文に準じて1000回転5分の2回法(敬意を表して浜田法と呼ばせていただきます)で採取し、抗凝固剤を薬の卸さんから購入して用時調整すればいいだけの話ですけどね。
(2012年2月15日記)

HPリニューアル原稿:アプトスとエックストーシスについて(3)

 厚労省の方針で、美容外科のHP中の、単純な「before→after」の写真解説が、今年中に規制されて出来なくみたいです。誤解を招きやすいからだそうです。
  それで、HPのリニューアルに向けて、基本的な事項をまとめていこうと考えました。写真は入りますが、単純な「before→after」でなく、むしろ詳細な経過写真と解説なら、趣旨から考えて許されるのではないか?と今のところは考えています。
HPのリニューアルのためなので、ところどころ、現在のHPやブログの写真と重複しています点、御了解ください。

 
☆アプトスとエックストーシスの仕上がりの違い
 
 一言でいうと、アプトスは「ふっくら」、エックストーシスは「シャープな」引き上になります。
はじめにアプトスを、半年ほど後にエックストーシスを、追加施術した方の経過写真で説明します。

1)アプトス6本の効果(写真をクリックすると拡大します)。
解説です。術前は、ほほのたるみのために、お顔の視覚的重心は、緑の丸・矢印のあたりにあります。左右3本づつのアプトスの糸は一本一本が、赤矢印のように少しずつお肉を持ち上げます。 結果、術後の視覚的重心は上方、ほほのあたりに戻ります。これがアプトスの効果です。

 2)エックストーシスの効果。
エックストーシスの効果はもっとわかりやすいです。糸のデザインと引き上げの方向とが一致しているからです。輪郭を引き上げる結果、シャープな印象に引きあがります。

 前面からの写真で順に解説しましょう。

 施術前。

 アプトス施術後。「ふっくら」とした引き上げ効果です。視覚的重心」が口横から頬に上がっているのがお解りでしょう。

 並べてみました(写真をクリックすると拡大します)。

 半年後、エックストーシスを追加施術前です。視覚的重心は頬の位置を保っていますが、輪郭(フェイスライン)をもう少し上げたくなってきて、追加希望でいらっしゃいました。いい意味で「欲」が出てきたわけです。(いい意味といのは、「人生に前向き」というか、明るい方向性ということです)

エックストーシス施術直後です。「シャープな」輪郭系の引き上げです。
2ヶ月ほど経ったところです。
 アプトスは戻りはほとんどありませんが、エックストーシスは1カ月くらいかけて、やや戻りがあります。しかしまったく戻ってしまうわけではありません。戻る程度は個人差がありますが、だいたい一ヶ月くらいで止まって落ち着きます

 エックストーシスの術前後(術後は2ヶ月目)の写真を並べてみました(直後ではなく2ヵ月後の写真を用いたのは、上に記した術後1ヶ月の「戻り」を越えて落ち着いた時期だから)。
「シャープな」輪郭系の引き上げ効果がわかります。

☆「切るフェイスリフト」と、アプトス・エックストーシスとの関係

 「切るフェイスリフト」は、耳周りから皮膚を剥離して引き上げるわけですが、もともとは、下写真のような、西洋人型のたるみに対して開発された術式です。
前からみたときよりも、横から見たときのほうが、効果がはっきりわかるでしょう。
 西洋人は、目鼻だちの凹凸がはっきりしています。このあたりを「中顔面」といいます。
 西洋人は、骨格の関係から、中顔面のたるみが目立ちにくいです。

 同じ手術を、東洋人に施した場合、下図のような結果になりやすいです。
西洋人の写真と同じく、顎から首にかけては、効果がありますが、中顔面のたるみは、切るリフト手術では解決しにくいです。耳周りから切る手術なので、そこから遠くなるにつれて、効果が薄れるからです。

 東洋人の場合は、西洋人と異なり、フェイスライン(顎のライン)よりも中顔面のたるみを苦にする人が多いです。西洋人に比べて、目や鼻あたりの骨格に凹凸起伏が少ないからです。

 少し話がそれますが、年配の西洋人で、切るリフトによって、見た目すばらしく若返っている方を間近で見ると、骨の上に皮が乗っているような感じでびっくりすることがあります。西洋人の場合、中顔面の骨格が綺麗なので、剥離してくっつけるといった操作をして瘢痕化させるだけでも、すなわち、軟らかい脂肪組織を繊維化させてボリュームとってしまえば、見た目綺麗になります。
 しかし、日本人など、東洋人はそうはいかないことが多いです。中顔面の骨格が平坦で、お肉が多く下がりやすいからです。

 もともと、アプトスというのは、ロシアで、この「切るリフト」の中顔面への補助的施術として開発されました。「切るリフト」の効果が出にくい中顔面にたるみが強い「東洋人型」の患者に対して、「切るリフト」の補助として主に施術されていました。

 それが、日本や東洋に紹介される流れの中で、わたしたち東洋人に対しては、中顔面への「アプトスだけでいいんじゃないの?」という感じで広まりました。
日本では、アプトスを、切るリフトの補助として位置付ける先生は少ないんじゃないかと思いますが、元々はそういう経緯です。

 一方、エックストーシスというのは、これはフェイスラインに効きますから、「切るリフト」と同じ方向性の施術です。

 まとめますと、「切るリフト」で効果が及びにくい中顔面をターゲットとするのがアプトスで、「切るリフト」と同じ方向性の効果を、ダウンタイムも切り傷も残さずに達成しようと考案したのが、エックストーシスです。
(2012年2月13日記)