ヒアルロン酸注射で失明させないために(その4)


その1は→こちら、その2は→こちら、その3は→こちら

新しい針が2種類出来てきました。


従来のマイクロカニューレとどう違うかというと、針先が丸く閉じている点は同じなのですが、1)針長が短く(従来品は25mmまたは30mm、新しいものは12mm)、2)穴面積が通常の針並み(上図左)あるいはそれ以上(上図右)に広くなっています。


注射時の抵抗を極力小さくしようという工夫です。従来品の30G針は、粘度の高いヒアルロン酸を注射するには、抵抗が強すぎるので。

先回試作した角型の針(ノンべベル針)と3種類を打ち比べてみての感触ですが、製作費は角型の針がいちばん安いのですが、刺入は先丸のほうがやはり抵抗少ないです。ただし、先丸のものは注入時の抵抗がやや大きいようです。開口部の面積をさらに大きくした上図右側のものでも同じです。この理由がよくわからないのですが・・側方から押し出す場合、組織の抵抗が高くなるということでしょうか?

手順も工夫してみました。

まずマーキングします。これをしておかないと、針で刺した穴が小さくてわかりにくいので。

次に通常の30G針で皮膚にアドレナリン入りの局麻薬でわずかに麻酔をします。
これをすることで、次に針を刺入するときの痛みが軽減されるし、血管を収縮させるので、動脈に当たる率もさらに下がるでしょう。

このあと、27G針を深くまで刺して、一度抜きます。このあとで30Gの鈍針を入れるための道をつくるわけです。
このときに動脈に当たっていれば内出血します。内出血しなければ動脈に当たっていないということです。

次に鈍針を刺してヒアルロン酸を注入します。



このとき、両サイドを指で圧迫しているとさらに安全であろうことは、先回記しました。

さて、この鈍針、ほんとうに動脈壁を貫通しにくいのか?について、以前考案した「鶏もも肉の動脈モデル」(→こちら)で検証してみました。
↓のような回路ですが、

 試作時には緑色の食用色素を使ってみたのですが、これだと時間とともに色素が血管外に漏出して緑色に染まってしまうことがわかりました。色素の分子量が小さいためだと考えられます。
それで、自分の血液を用いてみました。これなら赤色は赤血球なので、血管外に漏出しません。
もし、このモデルを、ほかの実験に使用する方がいた場合のための付記ですが、もも肉中の虚脱した血管内を80mmHgの圧まで高めるには、結構なvolumeがいるようです。それで、最初は生理食塩水を注入して虚脱した毛細血管を膨らませておき、最後に血液を入れるといいです。また、もも肉の両端は、輪ゴムや絹糸を用いて、しっかりと止血しておく必要があります。

そんな工夫の成果として、よい動画が撮れました(YouTubeにUPしました→こちら)。
鈍針では、これだけ血管壁を押しても、貫通しません。



一方、通常の鋭針では、すぐに突き刺さって動脈壁から出血してしまいます。


鶏は、普通に売っているもも肉では、解体の過程で血管が切れていることが多く、丸焼き用に使うもの(近所のイオンで2000円くらいで売っていました)を使いました。使用するのは足一本なので、残りはスタッフが喜んで持って帰りました。「明日は日曜日なのでサムゲタンに挑戦してみる♪」そうです。今ごろ作ってるんじゃないかな?

鶏の血管に自分の血液を注入するというのは、黒魔術のようで気味が悪く、ほかの方法ないか考えたのですが、やっぱりこれしかないですね。

おかしなことを色々工夫する先生だ、と思われるかもですが、スタッフがサムゲタン作りに挑戦するのと、たぶん感覚的には似たことです。思いついたらやってみたいし、うまくいけば達成感があります。何より、自分の仕事の自信につながりますしね。

【目の上の窪みへのヒアルロン酸注入について】は→こちら
(2014年11月16日記)

続きがあります。「その5」は→こちら

ヒアルロン酸注射で失明させないために(その3)


前回(→こちらこちら)の続きです。
針を工夫してみました。


右はヒアルロン酸のボックスに付属の専用針です。先端はとがっています。左は今回試作してもらったもので、まったくの円筒状です。とがっていません。
側方に穴の開いているマイクロカニューレとの違いは、製作費が圧倒的に安いことです。また、側方からではなく、先端からヒアルロン酸が出るので、目的とする個所にヒアルロン酸を入れやすく、狙った通りの成形がしやすいと考えられます。

実際に注入する手順ですが、この針はとがっていないので、皮膚に刺さりません。そこで通常の尖った針(赤色)でまず穴をあけて道を作ります。 追記:このときの針は27G、あとでヒアルロン酸を注入する時の針は30Gがいいようです。
 
次に尖ってない針(白色)でその傷から先端を通してやります。失明の原因となる動脈は、この深部にありますが、皮膚を貫けないような鈍針が、動脈壁を貫通するとは考えられないので、動脈を傷つけず、安全に深いところにヒアルロン酸を注入することができます。

 
下の写真は針を進めて深部まで達したところです。注入時には、念のため、左右の眼付近への血流を遮断すべく、指で両側面を圧迫したほうがよいと思います。この手技なら、動脈にささって塞栓を起こして失明するということは起きないでしょう。
 
市販のマイクロカニューレ(→こちら)は、実際に使ってみると、非常に注入しにくいです。最大の原因は、針の長さでしょう。ヒアルロン酸付属の針は12mm長ですが、マイクロカニューレは25mmあります。30Gの細さで25mm、これで粘稠なヒアルロン酸を注入しようとしても、実際にはまず入っていきません。それで27Gとか太めの針に皆さん変更するようなのですが、これでは細かい仕事は出来ません。
 
現在、針のメーカーに特注で、30Gで12mmのマイクロカニューレを試作してもらっています。あと一か月くらいで出来上がるそうです。今回試した円筒状の針に比べると、先端が丸い分、皮下を進むときに抵抗が少ないことが予想されますが。製作コストは高くなります。安全性は、どちらも同じと思うので、コストと使い易さを勘案して、どちらを使っていくか決めようと思っています。

今回、試作に協力いただいている会社は↓です。
http://reactsystem.net/


このブログは、同業の先生方も見ていらっしゃると思いますが、私は、今回試作したり考案したりしている針を、自らのオリジナルな針として企業秘密にしたり、針製作会社と結託して自分の営利のためのビジネスにしたりするつもりはまったくありません。
それは、これが、施術の安全に関することだからです。
私の所属し、日々の糧を頂いている、プチ整形の業界全体の信頼に関わることだからです。上記の会社に電話して「鶴舞公園クリニックの先生がオーダーしたのと同じものを送ってくれ」と注文すれば、私に対するロヤリティーなどは一切なく入手できます。そんなものを付けて価格を高くしたら、私は小銭が儲かるでしょうが、普及しにくくなりますからね。

動脈塞栓→失明という最悪のリスクを100%回避するために、私たちプチ整形に携わる医師全員は知恵を絞って総力をあげて乗り越えていかなければなりません。もし、より良い方法を思いついた方いらっしゃったら、ぜひ教えてください。わたしも引き続き知恵を絞り、また考案したことをここに記していこうと思います。

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ヒアルロン酸の種類についてですが、アラガン社のジュビダーム・ビスタが日本で厚労省の認可を得ました。
これまでは、スウェーデンQmed社のレスチレーンを海外から輸入して使用していたのですが、日本で認可された製剤がある以上、こちらに変えることにします。
例によって仕入れは大量です。正規ブランド品を安く仕入れるには、大量購入しかありません。

 

 一度にこれだけオーダーするクリニックはうちだけだそうです。仕入れが安くなれば、お客様への価格も安く還元できます。


こちらはついでに発注したボトックス。年に数回発注します。ボトックスもうちはビスタの正規購入だけで、ほかは一切使用しないし浮気はしません。昨年のボトックスビスタの発注量は、うちのクリニックが日本で一番多かったそうです。ジュビダームも日本一を目指します。

プチ整形の業界、競争はありますが、その一方で針の工夫で記したように、業界全体で皆で知恵を絞って乗り越えていかなければならない山もあります。
弱肉強食の厳しい世界ではありますが、仁義や規律はあります。それはどこにあるかというと、医師ひとりひとりの心の中にあるのです。私はそう考えます。

その4(→こちら)に続く。
(2014年11月8日記)