眼の下の小じわのPRP療法(その2)


その1は→こちら

PRP療法について久しぶりに記します。この施術は効果が出るのがゆっくりです。うちは3年ほど前から自作キットで始めたのですが、そのころ施術した方の結果がようやく判ってきたという感じです。
当院でのPRPは、もちろんフィブラストスプレー(FGF-2)の添加はしません。ご自身の血液約30mlを採取して二回遠心器で回して作成します。キットが自作なので安価(材料費は抗凝固剤を含めても千円くらい)です(→こちら)。ただし、再生医療に含まれることになったため、その審査などの費用が発生します。ですので、以前は一回3万円で施術していたのですが、現在は5万円に値上げしました(すみませんm(_ _)m)。しかし、それでも市販のキットを使って施術しているところ(20~30万円くらい?)よりは、はるかにお値打ちです。なおかつ、一時凝集抑制のためにPGE1を使用するので、市販キットよりも確実に濃厚な、密度>300万/μlのPRPが採取できます。

術前、約3年前です。小じわや毛穴が目立ちます。

 だいたい年に一回、3年間で計3回施術したあとです。

・・別にphotoshopで加工したわけじゃないですよ。
小じわや毛穴が目立たなくなっているのは、繊維芽三郎おじさん(笑→こちら)が、この3年間せっせとコラーゲンを紡いで仕事してくれたおかげです。加齢によって疎になっていた間質のコラーゲンが目一杯蓄えられて密になったため、毛穴や小じわが押されてパンパンに張ったわけです。

・・とまあ、今回のお話はこれで終わりですが、少し芸が無いので、薬剤である成長因子(FGF-2 )を添加すると、なぜボコりが起きるのか?薬剤を加えないPRPだけだと、なぜこのようにボコらず均一な結果になるのか?について解説してみます。少々医学用語が混ざって解りにくいかもしれませんが、雰囲気だけでもつかんでください。

PRPというのは、その名(Platelet rich plasma)の通り、血小板を濃縮したものですが、血小板中には様々な成長因子が含まれています。PRP療法で重要なのは、このうちPDGFとTGFβです。なぜなら、繊維芽細胞に作用して、これを活性化するからです。

ここで、オートクリン(autocrine)という言葉を覚えて下さい。オートクリンと言うのは、自分自身が産生した物質によって、自分自身が活性化するという仕組みです。繊維芽細胞は、PDGFによるオートクリン機構を持っています。
ということは、外部から(この場合は血小板)PDGFで刺激してやると、繊維芽細胞のPDGFオートクリン機構が回りはじめるということです。そのあとは一定期間(だいたい8ヶ月くらい)自己活性化が続きます。TGFβにも、PDGFのオートクリン機構を刺激する作用があります。

(より詳しく知りたい方は、”Role of platelet-derived growth factors in physiology and medicine”という総説がネットで無料で読めるので御参照下さい。上のイラストもこの総説からの引用です。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2732412/

一方、FGF-2ですが、実は血小板というのは、FGF-2をあまり含んでいないようなのです。だから同じ「成長因子」と言っても、PDGFやTGFβによる作用を期待するPRP療法と、FGF-2注射とはまったく別物と考えたほうがいいです、というかまったく別物です。

FGF-2はどこに働くかというと、脂肪組織内にある幹細胞(ADSC、adipose derived stem cell)に作用します。
なおかつ、ADSCは、FGF-2によるオートクリン機構を持っています。繊維芽細胞はPDGF、脂肪幹細胞はFGF-2によるオートクリン機構がある、ということです。
・・名前はFGF=fibroblast growth factor(繊維芽細胞成長因子)なんですけどね。発見された当初の命名が、研究が進むにつれてそぐわないことが解ってきたけど、今さら名前変えるとさらに混乱しそうだからそのまま使われている、って感じです。

(同じくネット上で無料で読める総説“Concise Review: Adipose Tissue-Derived Stromal Cells—Basic and Clinical Implications for Novel Cell-Based Therapies”
http://dx.doi.org/10.1634/stemcells.2006-0589
のp821を御参照下さい。
=====
“ADSC do express an autocrine FGF-2 loop that maintains their self-renewal ability in vitro.“
「脂肪由来幹細胞は、試験管内の実験で、自己新生を維持するための、FGF-2によるオートクリン機構ループが確認されている。」
=====
と引用文献付きで記されています。)

イラストで示すと下図のようなことになります。

 脂肪組織中にFGF-2を注射すると、幹細胞のオートクリン機構が活性化します。ここで、幹細胞というのは、繊維芽細胞のような分化した細胞ではなく、未分化細胞であるという点が重要です。活性化(増殖)の過程で、さまざまな細胞に分化します。中には筋肉や軟骨、さらには骨といった組織に分化するものも現れます(ごつごつになる)。
また、運よく柔らかい脂肪細胞に分化した場合でも、脂肪細胞というのは、幹細胞の数倍から十倍の大きさがありますから、その部分は風船のようにふくらみます。これがたまたま、本当に運よく法令線などの凹みにぴったりと収まる膨らみ方をしてくれた場合には、成功例となります。しかし、調節はできないですからね・・。本当に運を天に任せるしかない話なので、私は恐ろしくてとても施術する気になりません。

一方、フィブラストスプレーを加えない普通のPRPでは、主成分はPDGFやTGFβですから、脂肪内にある幹細胞のオートクリン機構は刺激せず、主に真皮にある繊維芽細胞のオートクリン機構のみを活性化します。繊維芽細胞というのはすでに分化し終えた細胞ですから、ほかの細胞に変化することはないし、数が増えても組織の容積を著しく増大させることもありません。ひたすらコラーゲンをせっせと紡いで間質に放出します。結果、張りのある皮膚が出来上がる、ということになります。

最初の症例写真で、目の下を中心としてきれいに平坦に皮膚の張りがでているのは、細胞が増えたのではなくて、繊維芽細胞が放出したコラーゲンが増えたからです。また、オートクリン機構に似た用語でパラクリン(paracrine)機構というのがあります。これは「すぐそば(隣り)の細胞に作用する」と言うことで、繊維芽細胞はPDGFに関してパラクリン機構も持ちますから、一箇所に注射するとそれが一定の範囲の繊維芽細胞を順次活性化していきます。
結果、ヒアルロン酸を注射する時のように、注射した箇所だけが膨らむというようなことがありません。ベターっと見渡す限り均一なコラーゲン畑が収穫を迎えます。繊維芽三郎おじさん、お疲れさまでした。

どうでしょう、御理解いただけたでしょうか?
(2015/07/11 記)

追記) 当クリニックは再生医療安全確保法に基づく届出・認定を済ませています。
細胞培養加工施設番号 FC4140002
再生医療提供計画番号 PC4150001
です。
平成27年7月現在、細胞培養加工施設の届出をせずにPRP療法を施術した医師は、罰金刑および行政処分を受けます。
PRPの施術を受ける際には、クリニックのHPなどで施設番号の確認をしてくださいね。


鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継

糸での引き上げのお客様がリピートする理由


(お詫び) 当院は2年くらい前から予約が込み合って来て現在は7ヶ月待ちです。半年ほど前からは毎月1日に7ヶ月先一か月分だけの予約をお受けすることにしました。7月1日は来年2月分の予約日だったのですが、朝10時から受け付けて夕方5時頃には全て埋まってしまいました。・・この一日だけでスタッフは300件以上のお電話の対応に追われました。スタッフも声が枯れるので5人がかりで交替で対応するのですが、電話を切った瞬間に次の電話が鳴るので、交替もままならない状態でした。「つながらない」とお叱り頂いた方には、本当に済みません。自分も、レストランなどを予約するとき、あまりにも毎回「満席です」と断られると、面白くなくて足が遠のいてしまいますから、本当に恐縮しています。
毎月1日以外の日でも、たまたまキャンセルが出ていれば、そのときお電話頂いた方に御案内いたしますので、どうか懲りずにまたお電話いただきますよう、伏してお願い申し上げます。
また当院にカルテのある方のボトックス・ヒアルロン酸注射などは、お電話頂ければ当日対応できますので御利用下さい。レーザーカーボンピーリングは覚王山の分院でしたら予約に空きがあります(→こちら)。


さて、今日は糸のお話です。
あさこ先生のビフォーアフター画像(→こちら)がとても好評のようで、ブログの解析ページによればダントツでこの記事がアクセス一位です。中には「この先生本当に糸だけなのか?骨切りとか大きな手術してるんじゃないか?」と疑う人もいるかもしれませんが、誓ってそれは無いです。

もっとも、一回の施術でこうはなりません。一回施術すると、とくにエックストーシスの場合、「戻り」があります。しかし「溶けない糸」で施術した場合、100%戻ってしまうわけではなく、個人差はありますが、ある程度は持ちこたえるというか、効果が残ります。
これを繰り返し、積み重ねて、さらにヒアルロン酸で肉付けしたりリポレーザーで削ったり引き締めたりしていくと、あさこ先生のような結果になります。

あさこ先生はまだ数十本だったと思いますが、うちの最多本数の方は130本です。その方に最後に糸を入れたのはもう4、5年前ですが、その後もヒアルロン酸やボトックスを打ちに通っていただいてますので、私も興味深々で経過をみていますが、これだけ本数入れると落ちてこないですね!頬や輪郭のたるみに関しては、まったく時が止まったようです。
130本まで入れたのは、彼女自身が強く希望したからで(直観の強い方です)、130本で打ち止めにしたのは、それ以上物理的に入りにくくなってきたと私が判断したからです。細い糸といえど、直径や体積はありますからね。新しい糸が入り込む余地・スペースが無くなってきます。
見た目も、頬を触った感じもごく普通ですよ。糸が(それも130本)入っているとはとても思えません。
彼女は著名人で、テレビにも出演なさいます。ときどき拝見するたびに「まさかこの人が130本糸入れてるとは、テレビのスタジオにいる誰も知らないし判らないだろうなあ。」と感慨深いです。美人ですし、ブログでお見せできないのが本当に残念。

前置き長くなりましたが、糸の症例写真です。
術前(初診時)

一回目糸の引き上げ直後。デザインはエックストーシスとアプトスのコンビネーションです(定番)。法令線などにヒアルロン酸も入れてます。

 下はそれから1年半後。「戻り」はありますが、「残り(持ちこたえ)」もあるのが判りますでしょう?

下は2回目糸を入れた直後。デザインは前回と同じです。

この方は、これで2回目ですが、これを繰り返していくと、だんだん「持ちこたえ」が蓄積されて直後の状態が維持されるようになっていきます。それが、あさこ先生の現在です。そしてそれは永続します。だいたい100本くらいを目途というか目標と考えるといいようです。上の方は一回に8本入れてますから、計16本ですね。
単純に計算すると、一回の施術が24万円ですから、100本までは12回くらい、24×12=288万円となります。「結構高いじゃないか」と思われるかもしれませんが、これ、必ず100本入れましょう、100本入れなければ意味無いですよ、じゃないですからね。入れれば入れただけ効果はあります。あとは各自のお財布と相談、って感じです。

上記の話は「溶けない糸」での施術ですよ。「溶ける糸」ではこんな蓄積効果期待できないですよ。
「溶ける糸」の売り文句は「溶けるから安全」ですが、よく考えてもみて下さい。この場合の「安全」って単語は「まったく元に戻ります」と言っているのと等価です。もしも元に戻らない何らかの効果があるなら「溶けるから安全」とは言わないでしょう。
「溶けない糸」で上手に施術して良い蓄積効果出していくのが正しい糸の施術です。以前にも書きましたが、ちょっとづつ盆栽の枝を手入れするような気長でしかし確実な作業です。
溶けない糸で下手な施術をすれば、確かに「安全」とは言えないですね。「溶けない糸は危険」と言う医者がもしいたら、それは「私は糸を入れるのが下手です」と告白しているようなものです。
・・・しかし「溶けない糸は危険」って言っている医者っていないですよね?私は知りません。「溶ける糸は安全」と謳う医者はよくいますけどさ(笑。

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咲江先生(→こちら)とのツーショット。二人でビタミンCローション(シュシュとチュチュ)の試作品持ってます。近日発売予定。乞うご期待です。 ※発売しました→こちら

(2015/07/04 記)

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継