幹細胞培養液(ADSC-CM)の話の続き


前回、脂肪由来幹細胞培養液(ADSC-CM)のことを書きました(→こちら)。
さて、培養液はともかく、培養した細胞はどうなってるの?というと、これは先端医療推進機構の液体窒素の中で保管されています。
先端医療推進機構は、もともと、この幹細胞を採っておいて、将来医学がさらに発達して、より若い頃の幹細胞が必要になったときのためにと投資する人に向けて、ビジネスを行っているわけです。
今回はより多くの培養液を採るために、通常よりも長く、3ヶ月間にわたって培養を続けましたが、その結果得られた細胞数はどのくらいかというと、だいたい1億個くらいだそうです。
うーん、1億個かあ。。
採取した脂肪は針の先で引っ掛けた程度、爪楊枝の先っぽくらいです。こんな少量から本当に採れるの?と心配したのですが、ちゃんと採れて増えるものなんですね。
さて、この細胞のほうはどうしよう?
培養した幹細胞を用いた施術は、第2種再生医療となりますから、私のクリニックでは出来ません。
しかし、培養液のほうは、成長因子を含んでいても、細胞ではありませんから、再生医療関連法による規制は受けません。
ですから、私たち、零細な美容自由診療クリニックは、培養液の臨床応用を模索することになります。・・ここ、まだ同業の皆さん気が付いて居られないようなんですが、1~2年後には、こぞって、幹細胞培養液を若返り注射としてあちこちのクリニックがメニューに加えてるんじゃないかなあ?

1億個に増えた私の幹細胞、将来的な自分自身の再生医療のために保存しておくのもいいですが、最近はiPS細胞のほうが活発です。京都大学の研究によると、iPS化するとテロメアまで復元して細胞が若返ってるらしいから(→こちら)、脂肪由来幹細胞、あまり出番が無いかもしれません・・。
それなら、解凍して再培養して、いつかは寿命で増えなくなるでしょうが、それまでとことん成長因子を絞り取ってしまったらどうだろう?
脂肪由来幹細胞の乳牛化計画です。

ここで一点、果たしてこのADSC-CM、単独で本当に効果があるのか?という疑問があります。先回記事にした通りです(→こちら)。
実は、先回の記事を書いた翌日、早速ADSC-CMを自分に打ってみました。さすが培養液、生体の組織液に近いんでしょう、痛みはまったくありません。
母親にも打ってみました。話を持ちかけると「もう80才なんだから、若返るなら早くやらんと時間がない。」と言って飛んできました。
3ヵ月くらいで結果が出るなら出るでしょうから、様子見です。

もうひとつのアイデアは、PRP液に混ぜて使うことです。
私のPRP作成法では、2回目の遠心後に、沈渣を生理食塩水で混ぜて血小板を再浮遊させます。ここで生理食塩水のかわりにADSC-CMを使うという手です。
PRPだけだとPDGFが主ですが、ADSC-CMを加えると、VEGF,HGFさらに少量のFGFも加わります。
発想としては、フィブラストスプレーのFGFを混ぜたPRPに近いのですが、あれの場合は、FGFの濃度が高くなりやすくて、過剰増殖が目立ちました。
しかし、ADSC-CMは、人工的に合成した薬剤ではなく、細胞自身が作り出したものですから(いわば生薬)、おそらくそんなに極端な効き方はしないでしょう。
PRPの注射だけですと、ほぼ、繊維芽細胞のコラーゲン産生のみに働きます。しかし、これにVEGFやHGFが加わると、コラーゲンの中に血管を引いてより柔らかい自然な組織のふくらみになるかもしれません(先回の記事で書いた「電気・水道工事」です)。
今、PRP療法がうちは5万円でやってますが、これにADSC-CMを加えたPRP+(プラス)療法という上位メニューを作って10万円にすれば、診療単価が上がって売り上げも増えます、うん。
もっとも、これはまだまだアイデアです。実際に自院の診療メニューに組み入れるには、通常のPRP療法との二重盲検試験を20例くらいで行って、フィブラストスプレー注射のような悲惨な合併症が起きないことも確認したうえででないと、私は出来ません。
しかし、こうして私がここにこうやってアイデアを書いたし、膝を打って、大した検討もせずに早速どっかからADSC-CM入手して診療メニューにさっさと組み入れて、「当院が先駆けて考案したオリジナルな最先端治療!」とか銘打って始めるクリニックも出てくるんだろうな。まあ、たぶんリスクは小さいだろうし、そういう度胸のある人はやってみればいいんじゃないでしょうか。
むつかしい話ばかりで面白くない人のために、最後にPRPの経過写真も添えておきます。
目の下のクマにPRP数回施術した方です。
治療前

一年後

二年後

私のPRP作成法、先日記したように、アメリカ形成外科学会の2015のBest Paper Awardに選ばれました。安価な手作りキット法ですが、おかげで一気に権威が付きました。アメリカ形成外科学会、ありがとう(アメリカ形成外科学会の公式アナウンスサイトは→こちら)。

また、当クリニックは再生医療安全確保法に基づく届出・認定を済ませています。
細胞培養加工施設番号 FC4140002
再生医療提供計画番号 PC4150001
です。細胞培養加工施設の届出は東海北陸地区で2番目、再生医療提供計画の提出は1番でした。
ちなみに、平成27年8月現在、細胞培養加工施設の届出をせずにPRP療法を施術した医師は、罰金刑および行政処分(医業停止や医師免許取消などのこと)を受けます。PRPの施術を受ける際には、クリニックのHPなどで施設番号の確認をしてくださいね。
(2015/08/22 記)

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継