「中間分子量ヒアルロン酸」は、私が製作販売している化粧品の主成分です。現在のところ、これを使用した化粧品は日本では他にありません。製品名を明示すると、ブログ記事が薬事法第86条(未承認医薬品の広告禁止)に抵触するおそれがあるので、製品名を伏して一般名である「中間分子量ヒアルロン酸」に置き換えて記事を書いています。関心のあるかたは検索あるいはクリニックHPから探してくださいね。
チュチュ(→こちら)の基剤には、中間分子量ヒアルロン酸を使いました。水溶液だと膣に注入してもすぐに流れてしまうので、ヒアルロン酸の粘稠性が便利だし、中間分子量ヒアルロン酸には皮膚の若返り効果があることが、60才以上の皮膚に一ヶ月間外用した結果で確認できているので、膣粘膜の若返りにも効くのではないか、という発想からでした。しかしこれは確認したわけではありません。
そこで咲江先生と相談して、「中間分子量ヒアルロン酸が本当に膣粘膜の若返りに役立つのか検討してみよう」ということになりました。
まず過去に似た研究がなされてないか、文献を探してみたのですが、その過程で、海外には膣用ヒアルロン酸製剤が、けっこうある、ということが判明しました。日本には無いです。
日本には、「リューブゼリー」「モイストゼリー」といった商品がありますが、これらはいずれも「高吸水性高分子」が主成分です。紙おむつの中に入っているもので、吸水性・保水性は高いですが、上皮細胞には何の働きかけもしません。ヒアルロン酸の場合は、分子量10万付近のものはCD44というレセプターに働きかけて上皮新生作用がありますが、高吸水性高分子の場合は滑りがよくなるだけで何の若返り効果もありません。
はっきり言いますが、皮膚科医の私の目から見て、これらは、大人のおもちゃ屋さんで売っている潤滑ゼリーとまったく変わりません。パッケージが女性向けに可愛らしくなっているだけです。
それに比べると、海外のものは、効果も医学的に検証されており、真面目に考えて作られています。・・このあたり、日本と海外(ヨーロッパの製品が多い)の意識の違いが現れていると思います。日本人は、こういうことを真面目に考えようという人を白い目で見る傾向ありますからね。私のことを「変な先生」と思った方、あなたのことですよ(笑)。
そういえば、チュチュのときも、発端は、日本にはビタミンCの膣錠がない、ということでした・・。
海外のヒアルロン酸含有膣用ゼリー
話を戻しますが、上の写真の4商品はいずれもヒアルロン酸を含有する膣用ゼリーで、閉経後の萎縮性膣炎によるかゆみやひりひり感、性交痛などのために開発されたものです。
このほかに、女性ホルモンを含む膣用外用剤もありますが、長期に使用した場合の副作用を心配して使いたがらない女性も多く、そこでおよそ副作用の心配が無いヒアルロン酸含有ゼリーの出番があるということです。
4商品の有効性を示す論文を読んで、これから行う中間分子量ヒアルロン酸の臨床研究の参考にしようとまとめてみました。以下のようです。
製品
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論文
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論文URL
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1
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Gynomunal
Vaginalgel
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Morali
2006
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http://www.ncbi.
nlm.nih.gov/
pubmed/16618016
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2
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Santes
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Costantino
2008
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http://www.euro
peanreview.org/wp/
wp-content/uploads
/575.pdf
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3
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Fillergyn
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Grimaldi
2012
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http://www.ncbi.
nlm.nih.gov/
pubmed/22728576
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4
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Hyalofemme
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Chen
2013
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http://www.ncbi.
nlm.nih.gov/
pubmed/23574713
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対象
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数
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観察期間
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研究デザイン
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1
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加齢または手術による閉経後一年以上、45-60才
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100
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12週
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対照を置かないオープン試験
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2
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加齢または手術による閉経後一年以上、44-64才
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150
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4週
|
対照を置かないオープン試験
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3
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加齢または手術による閉経後一年以上、平均57才
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36
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4週
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二重盲検(ヒアルロン酸を抜いた基剤との比較)
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4
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加齢または手術による閉経後6月以上でかつ70才以下
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144
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30日
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対照(女性ホルモン外用剤)を置いたオープン試験
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評価項目(*は有意差が出たもの)
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検定方法
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1
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(自覚)乾燥*、かゆみ*、ひりひり感*、性交痛*
(他覚)炎症・浮腫*、発疹*
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ANOVA 4×5
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2
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(自覚)乾燥*、かゆみ*、ひりひり感*、性交痛*
(他覚)炎症*、浮腫*、びらん*
|
ANOVA 4×4
|
3
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(自覚)痒み*、ひりひり感*、乾燥*、おりもの
(他覚)萎縮*、浮腫*、発赤*、乾燥*、分泌物
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Student t test
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4
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(自覚)乾燥、かゆみ、性交痛、ひりひり感(注1)
(他覚)膣pH(*群間)、細菌叢
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Student t test(前後)、ウィルコクソン順位和検定(群間)
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注1:4症状とも群間では有意差ないが、群内(前後)では改善
とくに3の論文が注目に値します。二重盲検といって、患者にも医師にもまったく判らないようにして、本当の製品と、それからヒアルロン酸だけを抜いた対照とで、比較されているからです。それで有意差が出ていると言うことは、間違いなくヒアルロン酸が効いたということです。
4の論文は、女性ホルモン剤と比較して、有意差が無かった、とするものですが、ちょっとずるいというか、有意差が無い=同程度に有効、ということでは必ずしもないのですが、そのようににおわせているようにも読める論文です。
ヒアルロン酸が分子量によって、作用が異なることに言及・注目した論文はありませんでした。まだそこまで、この分野の方々、気が付いてはいらっしゃらないようですね。
中間分子量ヒアルロン酸すなわち「分子量10万付近のヒアルロン酸」の働きについては、何度か解説しているのですが、なかなか解りにくいようです。ひょっとしたらこれなら解りやすいかもと考えて、まんがを描いてみました。
「中くらいのヒアルロン酸」が分子量10万付近のヒアルロン酸です。
つい最近まで、この分子量サイズのヒアルロン酸は、あまり役に立たないんじゃないか?と考えられていました。
ところが、スイスの大学の先生が、「この中くらいのサイズのヒアルロン酸こそ、萎縮した皮膚を分裂増殖させる能力を持っている」ことを明らかにしたのです。2012年のことです。
CD44というのは、ヒアルロン酸のレセプターです。表皮細胞の表面にたくさんありますが、この2個が近づくと細胞に分裂増殖のシグナルが入ります。すなわち表皮が厚くふっくらとします。2個のCD44を近づけるには、ヒアルロン酸は小さくても大きすぎてもいけないのです。
さらに、このCD44というのは、表皮細胞の表面に突き出たトゲのような構造の先の方にあるようなのですが、このトゲ自体が、分裂増殖のシグナルによって、ニョキニョキと増加します。
さらにさらに、トゲからは、なんと中間分子量サイズのヒアルロン酸が産生されるようなのです。いったん活性化した表皮細胞は、自分自身に正のフィードバックを送りはじめるということですね。
なんて素晴らしい中くらいサイズのヒアルロン酸!
どうでしょうか?うちのスタッフたちに見せたら「そういうことだったのか、ようやく解った!」と言ってくれました。ていうか、これまで解ってくれてなかったの?あなたたち・・。
この原画もイラストレーターさんにお願いして、カラーで可愛く仕上げてもらおうと思います。お楽しみに。
(2015/08/12記)
追記
赤ちゃんの皮膚が作られる過程における、中くらいサイズのヒアルロン酸の働きについても、イラストにしました。
さらに付記すると、16週では分子量10万付近のヒアルロン酸によって表皮細胞は分裂増殖するのですが、40週近くになると、こんどは分子量200万付近の大きなヒアルロン酸が羊水中に増えて、赤ちゃんの表皮細胞を成熟させます(皮膚の最外層の角質の形成に働いて、赤ちゃんが外界に出る準備をします)。
このように、ヒアルロン酸と言うのは、分子量サイズによって、役割が異なるということが近年わかってきているということですね。
追記
赤ちゃんの皮膚が作られる過程における、中くらいサイズのヒアルロン酸の働きについても、イラストにしました。
さらに付記すると、16週では分子量10万付近のヒアルロン酸によって表皮細胞は分裂増殖するのですが、40週近くになると、こんどは分子量200万付近の大きなヒアルロン酸が羊水中に増えて、赤ちゃんの表皮細胞を成熟させます(皮膚の最外層の角質の形成に働いて、赤ちゃんが外界に出る準備をします)。
このように、ヒアルロン酸と言うのは、分子量サイズによって、役割が異なるということが近年わかってきているということですね。
鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継