伸縮系の糸について・その1(スプリングスレッドなど)


ある先生のブログでこのような記事を見つけました。
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超人気クリニックの糸について
2015-11-13 16:46:09
テーマ:たるみ治療
名古屋 40代女性

予約が取れない超人気クリニックで
糸の施術を受けたそうです。
施術直後の効果はさすがだったそうですが・・・
しばらくは引き連れ感・違和感が強く・・
しかも、違和感が減った頃には効果がなくなり、
元通りに戻ってしまったそうです。
なんと、違和感は今でも感じることがあるそうです。
今回スプリングスレッドを受けて
その直後からの違和感の少なさと
100倍と感じるほどの高い効果に
ビックリされていました。

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具体的に名指しはされていませんが、うちのクリニックを指していると思います。
「100倍」という数字は、単に誇張した形容詞に過ぎず根拠など無いのでしょうが、あまり面白くはありません。
なぜ面白くないかと言うと、エックストーシスやアプトスといった、引き上げ・引き締め系の糸のあとで、スプリングスレッドのような伸縮系の糸の施術をすれば、効果は高いだろうし、もちろん伸縮系なので突っ張り感・違和感は少ないだろうからです。そこを解っているのか解っていないのか知りませんが、自分の施術したスプリングスレッドの方が優れている、と結論付けている、ここが間違っているからです。
下ごしらえをして、きれいに焼き上げたスポンジケーキの上にクリームを載せて、「どうだ、スポンジケーキよりも俺の作ったケーキのほうが美味いだろう?」と言っているようなものです。

スプリングスレッドというのは、以前の記事でも解説しましたが、2007年にフランスの医師が考案したもので、日本には2010年頃に紹介されています。上の失礼な先生のブログにも、2010年頃からスプリングスレッドの記事が登場するので、この先生もこの頃手技を習得したのでしょう。
伸縮系の伸び縮みするリフト用の糸というのは、この先生の目には随分画期的と映ったのかもしれませんが、決して新しいものではありません。私の知る限りでは、ブルガリアのDr. Serdevが1990年代に考案したSerdiv suture lift(POLYCON)という糸が一番古いです。ネットで調べてみると、好んで用いている美容外科医もまだまだ世界的に多いようです。下の画像は10年位前の国際学会で、私がDr.Serdivから直接購入したものです。

スプリングスレッドの糸は、中心にポリエステル糸がらせん状に芯となって、その周りをシリコン(いわゆるシリコンゴム)でコグを付けて型どったもののようです。
私は伸縮系の糸としては、自製のスプリングアプトスを愛用しているのですが、これと比べたときに、いくつか気になる点がありました。
それは、

1) スプリングスレッドの糸は、直後はともかく、年月が経つと抜けなくなるのではないだろうか?シリコンが柔らかいため、芯としてポリエステルを入れているのだろうから、シリコン自体は千切れやすい。だから組織との癒着後に抜こうとすると、ポリエステルだけが抜けて、外側のシリコンは残るのではないか?
スプリングアプトスの場合は、何年たとうが、端さえ見つければ、完全に抜けます。


2) スプリングアプトスは完全にばねなので、伸縮性は非常に大きい。スプリングスレッドは、ばねというよりはゴムひものようなものだから、伸縮性は劣るだろう。
スプリングアプトスの場合は、一本でかなり上がります。たぶん一本のスプリングアプトスの効果を出すためには、スプリングスレッドは複数本要ると思います。


3) 糸の仕入れ価格は高いだろう。
スプリングアプトスは一本数十円で自作できます。作成法の動画は→こちら


要は、スプリングスレッドに、スプリングアプトス以上のメリットを見出すことが出来ませんでした。
上の先生は、アプトスなど引き締め・引き上げ系の糸の施術の経験がほとんど無いのだと思います。だから、スプリングスレッド以外は全て無意味、みたいな独善的な結論を、お題目みたいに繰り返しブログで唱えるのでしょう。勝手に唱えるだけならいいのですが、こちらに迷惑が及ぶのは嫌ですからね。しっかりと反論させていただきます。
仮に、この先生が過去に引き締め・引き上げ系の糸の施術の経験があったとしたら、彼の「スプリングスレッド以外の糸の施術は無意味」という主張は、過去にこの先生が行った施術で成功例が無かった、ということを告白していることになります。俺は下手だった、と自分で言っているようなものです。ほかにも「目周りの手術は眉下切開以外は無意味」みたいな、斬新な御見解をお持ちのようですが、単に眉下切開以外は俺は苦手だからやらないよ、ってことだと私は解釈します。

ちょっと頭にきたので、たまたま今日いらっしゃったお客様で、スプリングアプトス入れたお二人の方にお願いして、写真使用させていただいて、解説することにしました。「たまたま今日いらっしゃったお客様で、スプリングアプトス入れたお二人」というところ、注目してくださいね。さりげなく書いてますが、私は10年以上、毎日のようにこうやって糸の施術しています。

まずこちらの方。1年半ほど前に入れたエックストーシスです。上は術前、下は術直後。
輪郭引き締まって安定したので、口横と鼻横にスプリングアプトス左右に2本づつ、計4本入れました。上は術前、下は術直後。
スプリングアプトスは伸縮系なので、口も開けやすいし、違和感はエックストーシスよりもはるかに少ないです(たぶんスプリングスレッドもそうだと思います)。
ちなみに伸縮系の糸と言うのは、入れ方も引き締め・引き上げ系の糸とはかなり違います。まず、「引き締めて」はいけません。たるみの取れた、水平に寝た状態で、なるべく引き締めないように均一に入れます。すると起き上がったとき、ぽよよんと伸びて、落ちる肉を支えてくれる、そんな感じです。
逆に言うと、伸縮系の糸でつい引き締めてしまって引きつれが出来た場合には、糸を全部抜いて入れなおさなければ、修正できません。引き締め・引き上げ系の糸のように、入れた後でマッサージして直す」ということは出来ません。伸縮のためにマッサージしても引っ掛かりが外れにくいからです。だから、抜けるかどうか?が重要になってきます。

次はアプトス→エックストーシス→スプリングアプトスと入れた方です。まずアプトスの術前(上)と術直後(下)。ふっくらと丸く引き上がります。
このあとエックストーシスを入れました。下の写真の上段はエックストーシス後1年半経過しています。アプトス+エックストーシスの効果がお分かりと思います。すっきりしていますが、さらに口横にスプリングアプトスと、頬にアプトスを2本追加しました。

以上の2例を見てもお分かりかと思いますが、伸縮系の糸は、私は、引き締め・引き上げ系の糸を施術したあとの仕上げとして用います。
伸縮系の糸を最初からやったらどうか?と思われる方もいらっしゃると思いますが、たまにそれでもいい顔立ちの方もいらっしゃいますが、多くの方は、伸縮系の糸だけだと、なんというか、口横や法令線は改善されても、そのお肉が頬に寄って平ぺったい感じになることが多いです。スプリングスレッドも同じだと思います。コグはついていますが、あれは単に組織に引っ掛けて動かないようにするだけで、引き締め目的ではないでしょうからね。
お顔の正面から見るといいんですが、斜めからみるとちょっと不自然になるはずです。
今回上のブログの先生は、エックストーシスかアプトスかうちでやった引き締め系の糸の施術後の患者さんにスプリングスレッド施術して、ずいぶんうまくいったと小躍りしたのかもしれませんね。私に感謝してくれてもいいくらいの話だと思いますが、少なくとももう少し謙虚に物事を見るようになさったほうが、立派な先生に見えますよとご忠告申し上げておきます。

長くなりましたが、最後にちょっとアナウンスです。私のやっている自製のスプリングアプトス、糸の作り方から入れ方まで、もしご興味のある先生いらっしゃったら、直接ご指導申し上げます。
通常の予約とは別に、お昼休み(12:00-14:30)にやります。ただし患者さんはお連れくださいね。
また、もしここをご覧になっている患者さんで、受けてみたいと言う方いらっしゃって、どこかの先生と懇意で、その先生が私の施術を見てみたいという場合には、その先生介して052-264-0212までお電話ください。
通常の予約は7ヶ月待ちですから、嬉しい方には嬉しい話だと思います。料金は変わりません(スプリングアプトス2本で8×2=16万円、4本はおまけして24万円)。先生の見学代は不要です。
ただし、上に記したようなことですので、私が見て、まずアプトスなりエックストーシスから始めた方がいい、と判断した場合には、そちらからやります。一ヶ月もすれば次の施術としてスプリングアプトス出来ます。
ちょっと上の先生のブログ読んでて頭にきたので、スプリングアプトス普及キャンペーンです。
 (2015/11/19記)

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継