酸化第二鉄以外の赤色色素についてーアゾ色素のお話


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先回の記事でPigment Red2とPigment Red17という色素について触れました(→こちら)。これらはアゾ色素に属します。アゾ色素とはーN=N-で二つの有機基が連結している化学構造をもった色素の総称です。
アゾ色素と言えば、思い出すのが、女子顔面黒皮症(リール黒皮症)です。大阪大学の小塚雄民先生が、スダンⅠというアゾ色素が原因であることを解明しました(→こちら)。
(小塚先生。近況は→こちら

スダンⅠは、赤色219号(Pigment Red 64)という、当時の化粧品に多用されていた色素の不純物でした。成分そのものではなく、不純物に原因があると突きとめたところが凄いです。
私も、いつかは、こういう鮮やかで社会的意義のある仕事をしたいものだと考えて、皮膚科医を続けてきたのですが、まだ道半ばです。
話がそれますが、小塚先生のこの業績はもっと評価されて良いと思います。論文発表当時は、本当に原因なのかは、化粧品業界が企業努力をして、黒皮症がなくなるまでは判らないと指摘されたであろうし、黒皮症の原因が化粧品成分にあったとしたら補償問題になりますから、今とは比べ物にならない企業の抵抗があったことでしょう。そして十年以上たって黒皮症の患者がいなくなったときには、それが小塚先生のお陰だということが、忘れられてしまいます。
少なくとも皮膚科医は、小塚先生の業績を記憶し、語り継ぐべきです。だからこうして記しています。
 
ちなみに、色素の名前ですが、赤色219号=Pigment Red64=D&C Red No31など別名がいろいろあって混乱します(→こちら)。
日本の法定色素番号とFDA名、CIナンバー、Color Index名については下記サイトの対比が便利です。
http://www.jsdacd.org/html/data/color/jpn.html

さて、アゾ色素というのは、スダンⅠの例でもわかるように、アレルギーを惹起しうる物質です。化学合成の過程で類似の化合物が生成されるためでしょう、不純物が含まれ、その不純物がアレルギーの原因となることもあります。
アートメイクやタトゥーの場合はさらに話が複雑になります。皮内に注入された有機化合物は、徐々に代謝・分解されて、化学構造が変化します。そのため、化粧品のように、アレルギーの原因検索として、元の物質でパッチテストを行っても、陽性反応を示さないことが多いです(→こちらこちら)。
なおかつ、その臨床症状は厄介です。苔癬型反応や肉芽腫型反応といってケロイド状に盛り上がってくることもあります。ステロイドは外用・局注とも一時的な効果しかなく、レーザーで分解するのが一番良いようなのですが、その過程で、レーザーによって断片化された色素がさらにアレルギー反応を増強させることもあります(下図)。
 
このアゾ色素によるアレルギー反応、医学文献検索すると、赤色色素での報告が多いです。海外からの輸入色素で、「非金属、MRIで安全」をうたう赤色系色素は、ほぼ全例アゾ色素含有と考えて間違いありません。たとえば、アメリカのアートメイク専門の色素メーカーであるKolorsourceは、使用している成分についてHP上にMSDSを挙げています(→こちら)が、酸化第二鉄以外の赤色色素は、D&C Red 6(赤色201号)とD&C Red 7(赤色202号)とD&C Red 33(赤色227号)の三種類で、全部アゾ色素です。同様、Biotouchの色素「Red」はPigment Red 273、「Japanese Red」と「Burgundy」にはPigment Red 57:1 (赤色201号)というアゾ色素が使われています(→こちら)。

アゾ色素によるアレルギーはすべての人に起きるわけではありませんが、いったん生じれば、MRIによる発熱やレーザー照射による黒色化よりもはるかに対処が困難です。これが、私が赤色色素として酸化第二鉄が一番無難であろうと考える理由です。

Pigment Red 210によると考えられたアレルギー反応の例。レーザー治療中に炎症が増悪している(分解産物によると考えられる)。幸い6回のレーザー治療で略治しています。(Gaudron S et al. Azo pigments and quinacridones induce delayed hypersensitivity in red tattoos. Contact Dermatitis. 2015 Feb;72(2):97-105.)

(2017/07/28記)

http://fukaya.shop-pro.jp/?pid=117834468 

(ロゴをクリックすると、私が開発した色素の販売サイトに飛びます)

鶴舞公園クリニック 院長 深谷元継