抜去した糸とその組織像


鶴舞公園クリニックの今月のご予約受付は終了しました。次のご予約受付日は5月1日(火曜日、10:00-18:30)からです。7ヵ月後の来年12月分のご予約をお受けいたします。公平のためお電話のみのご予約とさせていただいております(直接来院してのご予約は受け付けておりません)。ご了解くださいm(_ _)m。

フェイスブックの非公開グループで「美容外科症例わからん会」というものがあります。
美容外科医が知恵を出し合って、互いの疑問を解決しようという集まりで、メンバー数は380人です。
そこに下記のような質問をしてみました。
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当院で一年前に入れた溶けない糸(コイル状、ナイロン)を、凹凸が気になるために抜去して入れ替えたのですが、その際に周囲の脂肪組織が絡まってきた部があったので、病理に出してみました。なかなか見る機会の無いものだと思うのでUPします。


 通常は糸のみ抜けてきて、脂肪は付いてきません。時にこのように脂肪が付着します。視診的に明らかな感染などの炎症症状は一年を通してありませんでした。
ピンク色の均質な丸がナイロン糸の断面です。
 真ん中あたりの糸周囲に繊維化が強く起きていて、この癒着が強くて脂肪がくっついてきたのだと思います(拡大1)。


 癒着の少ない糸周囲にも弱いながら繊維化生じていることがわかります(拡大2)。

脂肪が付いてきてはいますが、溶けない糸の場合、このようにしっかり抜けるため、抜いてしまえば凹凸は治ります。脂肪付着しているからと言って、線状の陥凹になるなんてことはありません。
 溶けない糸はこのように、面倒ではありますが抜去は可能ですが、溶ける糸は、そもそも抜けないし、溶ける糸といえど異物であり、一年以上残る場合には周囲にこのような繊維化生じるでしょうから、凹凸きたした場合には修正しにくいのではないかと想像します。
それで質問です。溶ける糸で、一年以上たって、凹凸残存している例ってみたことありますか?
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数日待ってみたのですが、「いいね」は貰えるものの、コメントはつきません。そこで少し挑発的に下記のように付け加えてみました。

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コメント付かないですね・・
1) 凹凸が一年以上継続している例がある←溶けない糸と異なり抜けないから修正困難ではないか?
2) 凹凸が継続する例が無い←周辺に生じたわずかな繊維化だけでは支持力が足らないことの証明ではないか?
と反論して、溶ける糸の欺瞞を叩いてやろうという目論見だったんですが(笑)。
冗談は置いておいて、どなたか溶ける糸派の方で反論ございませんか?
学会などでもしつこく強調していますが、埋没二重が溶ける糸で出来ないのとまったく同じ理屈で、溶ける糸によるたるみ引き上げは意味が無いというのが、昔から変わらぬ私の持論です。
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しばらくするとお二人からコメントが付きました。

===(コメント1)===
〇大のAです。
深谷先生、ご報告ありがとうございます。
同じような症例何例もありますので、ヒアルロン酸でも、吸収糸でもなんでも、同様のことが生じうると考えております。
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私の返信です。

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ありがとうございます。ヒアルロン酸は半年から一年で吸収されると言いながらも、数年たっても残ってるように見える方日常的に診ます。同じ理屈だと、溶ける糸も、周囲繊維化した状態で残存するのではないかと考えます。もちろん細かく千切れて張力は無くなっているでしょうが。

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もう一人の先生。

===(コメント2)===
深谷先生、ご報告ありがとうございます。
〇美容外科のBと申します。
若輩者の美容外科医で大変恐縮でございますが、せっかくの機会ですのでコメントさせて頂きます。
まず、溶ける糸で「凹凸が一年以上継続している例があるかどうか」についてです。
私の溶ける糸のスレッドリフトの730症例程度の経験上で私の知る範囲ではありません。
(症例数が多くなくて申し訳ございません。数千症例以上の先生のコメントが欲しいところです。)
ただ、糸の刺入部付近のヨレが長期的に残ってしまっている症例は見たことがあります。
そのため、テクニカルエラーによっては溶ける糸でも凹凸・ヨレが長期的に残るリスクはあるのかなと思っております。
次に「周辺に生じたわずかな繊維化だけでは支持力が足らないことの証明」ということに関してですが、基本的に私も同意見です。
深谷先生のおっしゃる通りで溶ける糸では長期的には大きな支持力はないと考えています。
ただ、大きな支持力はないものの溶ける糸でもそこそこの支持力はあると思っています。
というのも、溶ける糸のスレッドリフトをしている患者さんはたるみが少なく見た目も実年齢より若い方が多いからです。
(特に繰り返して受けている方です。私の730症例程度の経験上です。数千症例以上の先生のコメントが欲しいところです。)
ちなみに、
Suh DH et al:Outcomes of polydioxanone knotless thread lifting for facial rejuvenation.
Dermatol Surg. 2015 Jun;41(6):720-5.
という文献ではスレッドリフトの施術を受けた方を2年間以上後ろ向きに調査しています。
<結果として>
・満足した人の割合は87%。
・肌質改善に関しては、もっとも良い”excellent,”が13人、良い”good,”が9名という格付け評価であった。(31人中)
・リフトアップ効果に関しては、もっとも良い”excellent,”が11人、良い”good,”が6名という格付け評価であった。(31人中)
であり、以下のように結論づけられていました。
「Facial rejuvenation using PDO thread is a safe and effective procedure associated with only minor complications when performed on patients with modest face sagging, fine wrinkles, and marked facial pores.」
「スレッドリフト(材質はPDO)を使用した顔の若返りは、軽度の顔のたるみ、小じわ、毛穴が目立つ患者において合併症も少なく安全かつ有効な施術である。」
そのため、溶ける糸のスレッドリフトは溶けない糸と比較して効果は劣っているかもしれませんが、730症例の私の経験上も患者満足度が高いですし有用な施術の一つであると思っております。
長々とコメント失礼致しました。
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私の返信です。

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B先生、ありがとうございます。
730例で凹凸一年以上続くケース思い浮かばないということは、無いのでしょうね。
解釈については、先生もお認めになっている通りと思います。
患者満足度については、組織学的に微細な繊維化が残る以上は、重力にあらがってたるみを引き上げる効果はなくても、張りを出すというか、ちょうどサーマクールを当てるような効果はありそうです。
B先生のようにまともな考えで、溶ける糸を施術しておられる方には、何も物申す気持ちはないのですが、中には「溶けない糸は危険で溶ける糸のほうが優れている」ような発信をなさる方がいるので、溶けない糸派の私としては困ります。患者が不安がって、なだめるのが大変ですから迷惑です。
私のほうが年長ですし(58才です)、もとより症例数を競う積もりはないですが、一応ご参考までに、私の溶けない糸の経験値はだいたい延べ5千例くらいで入れた糸総数は3万本くらいです。10年以上の観察例も多く、最近「溶けない糸の長期効果」として論文にまとめました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29180885
溶ける糸で満足度の高い成果をあげているB先生なら、溶けない糸を施術すればもっと患者に感謝されると考えます。最初は凹凸の修正など大変かもしれませんが、時間をかければなんとか抜けるものですよ。ぜひ溶けない糸にも挑戦してみて下さい。
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追伸が来ました。

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深谷先生御返信誠にありがとうございます。
少なくとも溶ける糸のスレッドリフトのテクニカルエラーで凹凸が長期的に残ってしまうことは稀ですがあります。
(私が知っている範囲ですと
・脂肪吸引+溶ける糸のスレッドリフトの組み合わせの症例で凹凸が長期的に残ったケース
・糸の刺入部付近の凹凸・ヨレが長期的に残ったケース)
また、私の経験でもスレッドリフト後の凹凸をヒアルロン酸注入で修正したケースが数例あり長期的に残るかもなと思ったこともございます。
なお、おそらく皮膚・皮下組織が薄い人に浅いレイヤーで糸を挿入したら溶ける糸でも長期的に凹凸は残りそうな気がします。
そのため、私も深谷先生の意見にほぼ同意なんですが
「溶ける糸で凹凸が1年以上続くケースが無い」と言い切るのはベストな表現ではないかと思います。
また、
Savoia A et al:Outcomes in thread lift for facial rejuvenation: a study performed with happy lift™ revitalizing.
Dermatol Ther (Heidelb). 2014 Jun;4(1):103-14. doi: 10.1007/s13555-014-0041-6. Epub 2014 Jan 17.
という別の文献でも
・スレッドリフトの施術を受けた方を2年間以上調査されていて
【結果】
・満足した人の割合は89%。
・左右非対称となったのは6%であったが、簡単に修正された。
・合併症の頻度は少ないが、以下のようなものが認められた。
→腫れ、内出血、赤み、少量の出血 、一時的な感覚障害。
【結論】
「Thread lift with “Happy Lift™ Revitalizing” is a safe procedure associated with minor complications, when performed on cohorts of patients requiring a facial lifting of modest degree.」
「スレッドリフト(種類はハッピーリフト)による若返りは、中程度の顔のリフトアップが必要とされる患者さんにおいて、合併症も少なく安全な施術である。」
などとポジティブに書かれています。
また、私の経験上で1年に1回溶ける糸のスレッドリフトをしている患者さんの症例写真を見比べてみて、1年前よりもたるみ減っているなと感じることもあります。
そのため、深谷先生のおっしゃることに概ね同意はしていますが、
・溶ける糸のスレッドリフトはたるみ改善効果がない。
・患者満足度の高さは組織学的な繊維化でサーマクールを当てる効果だけによるもの。
と言い切れるほどシンプルなテーマではないような気はします。
ありがとうございます。
やはり、深谷先生の経験値は卓越されていますね。
もちろん溶けない糸の方がたるみ改善効果が高いということは理解しております。
ただ、現状ですと溶けない糸のスレッドリフトは技術的に私は自信がないのでチャレンジできないです・・・。
論文・文献の方も誠にありがとうございます。
勉強させて頂きます。
長々とコメント失礼致しました。

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私の返信です。

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ご丁寧な追伸ありがとうございます。
すると、B先生ご自身の経験においては、一年以上凹凸が残った症例の記憶はないが、他院での施術(?)の修正の経験からは、凹凸が残る場合もあるかもしれない、という印象ということですね。
B先生が丁寧に施術していて、凹凸が目立ちにくいのかもしれませんね。
他院の症例は、一年後も目立つということは、直後は相当な凹凸で、初心者に近い先生が施術したのかもしれませんね。
それなら、「単なる張りではなくて、若干はたるみ効果が残るような気がする」というB先生の印象にも合致します。なるほど。
ところで、先生が挙げられた2論文は、実は私も読みました。
スレッドリフトに関する英語論文は、先生もご承知のように、数えるほどしかありません。
なおかつ、患者満足度を尺度として評価しているものばかりです。
ここが私は不満です。なぜなら、患者満足度は、効果のみならず、価格やスタッフの対応まで含めた複合的な結果であって、たるみ評価の尺度ではないからです。
なおかつ、長期効果の場合には、患者の実年齢自体が増加していくと言う面も考えなければなりません。
それで私は自分の論文では、評価尺度に工夫をこらしました。よい方法だと思うので、またお時間あるときにご一読ください。
私と同じ方法でB先生の手持ちの症例で解析して、両者を比較できるといちばんいいのですけどね。
お互い、溶ける糸と溶けない糸、片方しかやっていないですから、相手側のことは推測しかできません。
今回は、貴重なお時間費やして、私の挑発的で失礼な質問に丁寧にお答えくださいましてまことに有難うございました。
気が向いたら遊びに来てください。先生のようにまともな意見交換出来る方は好きなので歓迎します。

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いかがでしたでしょうか?若干専門的な議論ではありますが、一般の方が読んでもわからない話ではないし、むしろ有意義な情報だろうと考えて、こちらに紹介しました。
B先生のコメントにありますように、溶ける糸にもそれなりの効果というか満足度はあるようですから、私も決して全面否定するつもりはありません。もし溶ける糸の施術を選ばれるならば、B先生のような効果も限界も承知した方にやってもらうと良いですよ。
(2018/03/02 記)