多血小板血漿7:PRP作成法における「2回目の遠心分離」について考える


多血小板血漿6は→こちら
多血小板血漿8は→こちら

 この「血小板シリーズ」は、途中から、どうしたら多血小板血漿を一番合理的に作製できるか?についての、技術的考察になってきました。

 退屈に感じるかたもいらっしゃるかもしれません。すみません。こういう展開の予定では無かったんですが、持ち前の探究心に火がついてしまいました。まあ、そのうちには熱も冷めるでしょう。

 さて、今日の思いつきというか、アイデアを記します。
 血小板というのは、一回目の遠心で採った血漿から濃縮するためには、理論上、必ずいったん沈殿させなければならない、ということを、先回(→こちら)示しました。

 図にすると、こういう流れです。
ここで、問題がひとつあります。(2回目の)遠心後、上清を一部捨てて再浮遊させて作製したPRP液の血小板濃度が、計算よりもかなり少なめになってしまうケースがある、ということです。

血小板はどこにいってしまうのか? 二つ考えられます。

(1)上清に残っている
(2)試験管の壁や底にはりついてしまって取れない

です。

下の写真は(2)を示すもので、
このようにPRP液を作るわけですが、
このように、壁や底にしっかりくっついてしまう血小板があり、試験管ミキサーをかなり長時間まわしても、なかなか取れません。

 抗凝固剤をACD-Aとヘパリン、二種類で採血して比較してみましたが、同程度です。抗凝固剤のせいではなさそうです。

 この溶けない沈殿をへらで取って顕微鏡で見るとこんな感じ。


 多数の血小板が凝集して塊を作っています。

 しかし、これ、血小板の活性化による凝集ではどうもなさそうです。なぜなら、活性化物質(コラーゲンとか)は何も加えられていないから。

 また、血小板が活性化すれば、それはADPを放出するなどして、全体に及ぶはず(二次凝集)ですが、そこまで強い凝集ではありません。

 この凝集塊の出来具合いは、個人差があるようです。また、遠心加速度(×g)を強くするほど、多くなります。

 ここで、上に記した(1)と(2)に矛盾・葛藤が生じます。上清中に残る浮遊血小板を沈殿させるためには、強い×gを長時間かけるべきだ。しかし、そうすると、再溶解してくれない血小板の凝集塊が増える・・

 凝集塊をつくりやすい人では、二度目の遠心をかけて濃縮したはずなのに、再溶解後の濃度が、その前の血小板濃度よりも低くなってしまうことすらあります・・。2回目の遠心はしないほうがいいということになってしまいます。いったいどうしたものでしょうか?・・

 それで、次のような工夫を思いつきました。
一回目の遠心でできた血小板浮遊血漿を、少し取っておき、残りを2回目の遠心にかけます。2回目の遠心後の上清はすべて捨てて、そこに取り置いておいた血漿をいれて混和します。

 これなら、2回目の遠心で、どんなに血小板の凝集塊が出来てしまっていても、最初の血漿よりも血小板濃度が薄くなってしまう、という心配はいりません。

 この方法の利点は、もう一つあります。計算上、2回目の遠心における壁や底への固着率が何%であろうと、最初に示した「上清を一部捨てる」方法よりも、PRP液の最終濃度は高くなります。

 解りやすく、下図のように、「血小板が12個」の血漿を想定して、2回目の遠心による「壁や底への固着率が25%」の場合を計算してみましょう。
 上清の一部を捨てて残りで混和する方法(通常、皆、この方法でPRP液を作製していると思います)では、12個の血小板のうちの3個が使えなくなりますから、最終的に使用できるのは9個です。
しかし、血漿の一部を取っておき、これで再浮遊させることにすると、固着する血小板は2.25個で、使用できる血小板は9.75個です。上の方法よりも多いです。
 やっぱり、退屈ですかね?(^^;・・自分的には、思わず膝を叩いてしまうくらい良いアイデアだと思ったんですが・・。

 いずれにせよ、このPRP治療、最終的な血小板濃度が担保されるためには、あちこちにある「落とし穴」を避けていかなければならないようです。現時点で、私がはっきりと言える事は、市販のPRP作製キットを買って手順書に従って作製したからといって、本当にPRP液(多血小板血漿)が出来ているとは限らないということです。患者によって元々の血小板濃度が少なかったり、遠心分離の途中で凝集しやすかったりさまざまだからです。

 PRP療法の効果にばらつきが多い理由のひとつは、こういう、最終的なPRP液の血小板濃度が個々のケースで確認されていないためではないか?と現在のところ私は考えています。
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 ところで、久しぶりに成長因子入りPRP療法の話題に戻って、「フィブラストスプレー」(成長因子)の写真を示します。

 表はこうですが、
裏面は、
赤字で大きく「禁注射」と印刷されています。

 これ、注射したら、いかんでしょう?たとえ、「同意書」があったとしても・・。

 だって、同意書には、こんなにはっきりと赤字で「注射するな」と警告されてる薬剤です、とは書いてないでしょうからさ。

 仮に注射剤として使用する場合は、札幌医大の小野先生がそうなさってるみたいに、大学の倫理委員会通すなど、研究計画を第三者機関に説明して了解を得て、その上でさらに患者に説明してやるべきものじゃないかなあ。

 こんな、赤字で「禁注射」って大きく記されてる薬剤を注射して、もしも繊維性の回復不能な凹凸の合併症作ってしまったら、いくら「患者の同意があった」って主張しても、立場弱いと思うよ。

 わたしは、このフィブラストスプレー、とりあえず問屋さんに一本発注してみたんですが、この「禁注射」の表示を見て、絶対にこれを他人に注射するのは止めとこう、と思いました(自分に打って実験してみようかは悩み中)。
(2012年3月17日記)