多血小板血漿9:PRPは首の鳥肌のような肌質改善に効く+文献考察


多血小板血漿8は→こちら
多血小板血漿10は→こちら
 
 これを書いているのは、2012年の4月です。今年の始めに、他院での成長因子入りのPRP療法で肌に凹凸ができた方の相談を受けてびっくりして、いろいろ調べているうちに、探究心に火がつきました。

 成長因子無しのまっとうなPRP療法は本来とても安全なはずです。これで結果を出してみようと頭をひねって、実際にうちのスタッフたちにいろいろ工夫したPRP療法を試し始めて2ヶ月過ぎました。先回紹介した、

(1)瘢痕部の凹みには効く(盛り上げる力がある)→こちら

というのは、ひとつの成果です。

もうひとつ、

(2)首の鳥肌のような肌質改善に効く

という効果も確認できました。写真を示します。

術前です。

 PRP液は、成分採血機で大量に採取して(→こちら)首全体に注射しました。このときの血小板濃度は計数していませんが、成分採血機による採取ですから、100万個/μl以上はあったはずです。そのPRP液を20ml首全体に打っています。市販のキットに換算すると10キット分です。

 1ヵ月後。

 2ヵ月後。

拡大するとこんな感じです。

 鳥肌様のぶつぶつは、うぶ毛の毛嚢にあたります。加齢とともに真皮のコラーゲンが薄くなってきて、しかし毛嚢はそのままの大きさなので、鳥肌様に目立ってきます。

 PRPを注射すると、眠っていた繊維芽細胞が分裂増殖を始め、繊維芽細胞はコラーゲンを産生して、鳥肌様のぶつぶつの間が埋まっていきます。それはゆっくりなことで、2ヶ月くらいかかるわけです。

 この効果は、さすがにヒアルロン酸では出せません。いくら上手に打てる自信のある先生でも、無理でしょう。

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 そろそろ、結果も出てきたし、血小板凝集抑制剤にプロスタンジンを用いることで、安定して高濃度のPRP液を、自在に作ることが出来るようになったので、うちの診療メニューに加えていこうと思います。

 初回5万円、2回目以降1回3万円です。上の写真のスタッフの首の施術で計算すると、注射したPRPは20mlで、1回2mlの注射の10回分に相当しますから、トータルで回数券2枚、30万円になります。市販キットによるPRP療法はだいたい一回2mlが20万円くらいが相場でしょうか?とすると200万円分にあたります。首全体にしっかりPRPを打って効果を出そうとすると、市販キットでは、そのくらいの出費になるということです(だから私は今まで市販キットによるPRP療法はやりませんでした)。
 一回の採血量は32ccですから、女性の一回の生理の平均出血量(80cc)の2/5です。だから、1~2週に1回の間隔で、あるいは月1回の間隔でボチボチいけばいいと思われます。結果が出てくるの、2ヶ月目からだし。 最終的には成分採血機を使って一回で大量に入れた上のスタッフと同じ結果に辿り着きます。

 市販キットを使ったら、ありえない価格ですが、施術の品質は高いです。先回までに繰り返しアピールしているように、市販キットよりも、

安全性が高い(シリンジなど医療用具のみを使って濃縮する)

 この点が一番の売りです。

 また、日曜日のお昼休みを利用して(日曜もうちのクリニックはやってます)、主として皮膚科の先生向けに、わたしの考案したPRPの作りかたをご教授します。前にも記しましたが、わたしは、このPRP療法を自分のクリニックのメインに置くつもりはありません。むしろ、手術をなさらない美容皮膚科の女医さんたち(いや、男の先生でももちろんいいんですが、基本的に女医さんが多いと思うので(^^;)に伝授して、その代わりに糸などプチ整形手術のお客さんを御紹介していただく、そういうツールにしたいと考えるからです。ご希望の先生は電話にてご予約ください。

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 さて、ここから先は、お勉強ネタです。PRP関連の海外論文を読んで、興味深かったデータを引用・紹介します。

(1) 下は、韓国の先生がたによる、PRP液とPPP液(platelet poor plasma:乏血小板血漿)とを培養繊維芽細胞に加えたとき、増殖がどのくらい加速されるか?を比較したデータです(Kim DH, et. al. Ann Dermatol. 2011 Nov;23(4):424-31. Epub 2011 Nov 3.)。

 一見して、Con(無血清培養)<PPP<PRPであり、PPPでも多少は効果があるのかな?と思わせます。

 しかし、図の注釈を見ると、


 とあり、PPPはConに対して有意差があり、PRPはFBS(ウシ血清)に対して有意差がある、ということが判ります。しかし、PPPがConに対して有意差が出るのは実は当たり前のことなのです。
 そもそも、bFGFやPDGFなどの「成長因子」の存在がなぜ気が付かれたか、発見されたかというと、無血清培地と血清添加培地との、細胞の培養速度の違いからです。血清中には元々、様々な成長因子が含まれているのです。

 ですから、PPPがFBS(ウシ血清)に対して有意に高ければ、PPPには血清以上に、繊維芽細胞の分裂増殖を促す作用がある、と言えますが、Con(無血清培地)に対してしか有意差が出ないというならば、これは血小板を含まないただの血清と同程度の効果しかない、という解釈が正しいです。

 「PPPでも、注射すれば、多少の効果はある」という医者もいるようですが、わたしは、上の類のデータを曲解して、論文を読まない医者や患者を煙に巻いているのじゃないかなあ?と感じます。確かに多少の効果はあります。しかし、それは血清を注射するのと差がない程度の効果です。

(2) 次に、bFGFとPDGF(血小板由来増殖因子)との比較です(Thomopoulos S et.al. J Hand Surg Am. 2005 May;30(3):441-7.)。血小板由来のほかの成長因子についてもこの論文では検討されていますが、それらのデータを見る限り、血小板すなわちPRPの繊維芽細胞の増殖やコラーゲン産生促進効果は、ほとんどPDGFによる、と考えてよさそうです。
bFGFとPDGFを、それぞれ10ng/mlづつ加えて繊維芽細胞の増殖の具合を見ています。24時間の培養で、bFGFはcontrolの8倍、PDGFは13倍の増殖促進です。

上グラフは同じ論文中で見つけたもので、横軸の10ng/mlというのは、bFGFとPDGFとを、それぞれ10ng/mlづつ加えた結果にあたります。このときの縦軸(増殖の程度の理解ください)は31000くらいです。
 一方、ひとつ前のデータによると、それぞれを単独で10ng/ml加えて培養した結果はだいたい10000と17000くらいでした。合計すると27000で、31000とさほど変わりません。ということは、bFGFとPDGFには、相乗効果はない、まったく独立であって、両者を加えた効果は単純な算術的加算である、と解釈していいと思います。レセプターが異なるからでしょう。

 このデータは、bFGFとPRPとを混ぜて注射しても、それぞれの算術的加算以上の相乗効果は無い、という判断の根拠となります。

 しかし、これも、話の仕方によっては、たとえば、上のデータのbFGF単独の効果の部分を伏せれば、「PRPだけでは17000くらいです。しかし、bFGFを加えると、31000、効果は倍になります!」というネタにも使えます。

 蛇足かもしれませんが、あえて生意気言わせて貰うと、ここをご覧になってるお医者さん、せっかく私たち、医学部で高等教育を受けたのですから、自分自身でPubmed検索するとかして、EBMに沿った施術を心がけましょうね。どこそこの研究会で、私の信頼するほかのお医者さんがこう言ってました」なんて言い訳にもなりません。恥ですよ。

 さて、上のグラフは、bFGFとPDGF両者添加ではありますが、増殖促進効果は、だいたい、10あるいは多く見積もっても40ng/ml程度で頭打ちになるということをも示しています。

 この10または40ng/mlというのは、PRP液に換算すると、どのくらいの血小板密度なのでしょうか?

(3) 「Castillo TN et.al. Am J Sports Med. 2011 Feb;39(2):266-71. Epub 2010 Nov 4.」の論文に、PRP液の各種成長因子濃度を測定したデータがありました。

 3種類のPRP作製キット(Cascade,GPSⅢ,Magellan)によるPRP液それぞれの血小板濃度とPDGF濃度が示されています。



 「Cascade」では、血小板44万/μlでPDGF-ββ15ng/ml、「GPSⅢ」では、血小板57万/μlでPDGF-ββ23ng/ml、,「Magellan」では、血小板78万/μlでPDGF-ββ33ng/mlくらいです。ということは、だいたい、血小板濃度1万がPDGF-ββの0.3~0.4 ng/mlに当たります

 PRPの血小板濃度は、44~78万/μlと低いです。市販のPRP作製キットの現実って、こんなものなのだろうな、と私は思います。血小板の一次凝集対策をせずに高回転で遠心すれば、収率は悪いはずだからです。たぶん、日本で流通しているキットも、最終血小板濃度を計算盤で確認すれば、100万超えないことが多いのじゃないかなあ
 営業のひとは、うまいこと言うでしょうけどね。開発や技術のひとは、たぶん解ってます。確信犯でしょう。凝集しにくいひとの血小板を用いて、冷やさないように素早く作成すれば、中にはうまいこと100万超えたというデータも出るだろうから、きっとそれを使ってるんですよ。
 私の工夫した方法(といってもプロスタンジン加えて凝集抑えるだけですが)なら、10人中10人で必ず300万~400万まで濃縮可能です。うちのスタッフの1人にもともと血小板少ない(全血で15万くらい)ひとが1人いるんですが、それでも300万まで濃縮できました。

※論文に出てきた3つのPRP作製キットを調べてみました。どれも日本では馴染みがない、というか、アメリカのスポーツ医学分野で使われてるもののようです。
 「Cascade」は、下図です。日本のマイセルに似てます。素朴なキットです。


 「GPSⅢ」は、少し面白い。たぶん、比重が血漿と血球との間にある素材で出来たキャップにチューブがつけてあって、キャップ直下のバッファーコートが吸引できるという仕組みなんだと思われます。
 「Magellan」はさらに手が込んでいて、専用の遠心機と遠心管を使っています。小型の成分採血機と言っていいです。高いんだろうな、これ・・。
 工夫されてる順に、すなわち「Cascade」<「GPSⅢ」<「Magellan」の順に血小板濃度濃いわけですが、それにしても、「Magellan」で78万です。私が工夫したPRP作成法って、ひょっとしたら画期的なのかもしれません、いや、マジで・・。
 
 さて、それは置いておいて、上の繊維芽細胞の培養で、PDGF添加で頭打ちになる濃度(レセプターが飽和する濃度と考えられる)は高く見積もって40ng/mlくらいです。これを血小板濃度に換算すると、40÷0.4=100万個/μlです。

 「PRPが効果が出るのは血小板濃度で100万個/μl以上が望ましい」という文章が、ネットを検索するとときどき出てきます。この文章の根拠は、実際にPRP療法を行った結果の経験的なものなのか、それとも私と同じような計算をどこかの誰かがしたのか、それはわかりませんが、だいたい同じ数字になりました。

 もっとも、これは、培養液中の濃度が100万個/μlということです。ということは、PRP液を注射した、そのあとの濃度が100万個/μlあるのが望ましい、ということです。注射後PRP液は拡散しますから、やはりPRP療法というのは、数百万/μlに濃縮されたPPP液を打つのが望ましいです。

 もっとも、100万個/μlなければ、まったく効果が無い、ということではなくて、用量依存性に、効果が小さくなる、ということです。100万/μlなければ意味が無い、のではなくて、100万/μl 以上では頭打ちになる、ということですね。

 実際、いちばん最初のデータでは、5%PRP液の添加で、FBSに対して有意差が出ています。この実験のPRP濃度は160万/μlと論文中にありますから、5%なら8万/μl=3 ng/mlです。それでも有意差(=効果)は出るわけですね。1%なら1,6万/μl=0.6 ng/mlです。このPDGF濃度だと、さすがに有意差(=効果)は出ないようです。

 補足的な考察ですが、PRP液というのは、注射したあと、まず凝固系が活性化されて、ゼリー状になります(フィブリンのり)。これはゆっくりと線溶系の酵素によって溶かされます。注射後3日くらいふくらみが持続してから無くなっていくのは、このためです。
 血小板は、このフィブリンのりの中にとどまっています。組織液中の線溶系酵素によって溶かされて、コラーゲンと接触して活性化します。このときにPDGFなどの成長因子を出します。このときの血小板密度が100万あればいいはずです。
 最初に凝固系が活性化されてフィブリンのりとなるまでに、PRPは組織液と混じて、2倍くらいになるかなあ?注射翌日の腫れ(ふくらみ)が、注射量の何倍か?ってことです。2倍になっているなら、血小板密度は1/2に希釈されるわけだから、最初に注射する血小板濃度は200万あったほうがいいでしょうね。
 補足の補足ですが、上記メカニズムから考えると、注射前にわざわざ、カルシウムなどを加えて、活性化させる必要はないでしょう。美容外科学会(JSAPS)の最新号に、活性化剤として加える塩化カルシウムが皮下硬結の原因になるんじゃないか?という日本語論文が載ってました(日本美容外科学会会報 2012 Vol.3 No1 p1-8)。余計なものは加えないほうが無難です。

 さらに補足ですが(^^;、bFGFについても、PDGF同様、40ng/mlで頭打ちです。セルリバイブジータのbFGF濃度は不明(公開されていない)で、札幌医大の小野先生のプロトコールでは10μg/mlです。
 μというのは、nの1000倍ですから、小野先生のプロトコールだと、10,000ng/mlで注射しているわけです・・。40ng/mlで頭打ちなら、無駄じゃないかな?1/100の100ng/mlで十分な気がしますね。
(2012年4月16日記)